130 / 140
23. 2
「パパとママを天国に連れていってね」
去ろうとする死神の背中を
弱々しい声が追いかける。
「天国?」
「うん、地獄に連れて行かないでね」
「………」
“ パパとママを連れてかないで ” と
言われると思ってた。
少年が思っている、天国や地獄という場所は
おそらく無い。
それでもそれを彼が理解できるかどうか
謎だった。
だから死神は適当に返事を返す事にした。
これから1人で生きていかなければならない
小さな少年が、この言葉を支えに生きていくなら
安いものだと感じたのだ。
「大丈夫だよ。天国へ連れてくね」
死神は精一杯の笑顔を作って言ってやった。
もうずっと、誰かに笑いかけるなんて事を
していなかったから、どうやって笑うのか
忘れてしまって、顔がひきつったけど…。
「……約束だよ」
少年は、また涙をポロポロ流して言った。
「うん、約束」
死神は、どう接していいか分からず
面倒になって、早々に背を向けた。
その時思いもよらない事が起こった。
少年が死神の背中に、ぎゅっと抱きついて
きたのだ。
それから彼は1人でワンワン声を上げて
泣きだした。
死神はそのまま固まってしまった。
驚きのあまり。
自分に触れられる事にも
死神の自分を、恐れない事にも
触れられた瞬間の自分の感情にも…
全てが驚きだった。
胸の奥がムズムズして、何か暖かいものが
込み上げてくる。
死神は手を伸ばして、そっと少年の頭を
撫でてみた。
彼は何の反応も示さなかったけど
死神の胸には、ずっと忘れていた感情が
甦ってくるのを感じていた。
結局死神は、少年のもとに助けが来るまで
少年の肩を抱いていた。
ー この感じ…何だろう…
それから死神はその少年の成長を
近くで見守り続ける事になる。
彼が彼の一生を終えるとき
迎えに来るのは自分でありたいと
なぜか、強く思ったのだ。
ともだちにシェアしよう!