131 / 140
23. 3
彼はその後、両親を失ったショックや
自分を取り巻く環境の激しい変化などを
必死で受け止め、その中で、あの日
死神を見たことは、すぐに忘れてしまった。
死神の姿を見ることができたのも
あの夜だけの奇跡だったようで
それから何度、彼の前に現れても
その瞳が死神をとらえる事はなかった。
それでも死神はあの夜の出来事が忘れられず
ずっと彼の回りをウロウロしながら
本来の自分の仕事を続けた。
もう一度、あの目で俺を見てくれないかな
もう一度、あの手で触れてくれないかな
彼を見ていると、そんな感情が湧いてきて
その感覚を心地よいと思い始めた。
死神という役割はひとつの罰だった。
大昔の自分が犯した何らかの罪を
償う為に、死神の仕事をしている。
そして働きに応じて、その役割を終えて
次のステップに進める事になっていた。
死神は少年の見守りながら仕事をして
長かった自分の死神人生がもう終りに近づいて
いる事に気づいた。
このままでは、少年が亡くなるのが早いか
自分が死神でなくなるのが早いか
微妙になってしまう。
死神は迷わず自分の仕事を減らし始めた。
大事故など、大量に人が亡くなる時は
同じ地域を担当する仲間に、自分の仕事を
回し、同時に少年の死の情報は必ず欲しいと
伝えていた。
仲間、とはいっても関わることはほとんど無い
皆さっさと死神という役割を終えたくて
他の事にあまり興味が無いのだ。
だから死神の この行いを、仲間たちは
愚かな行為だと嘲笑っていた。
人を愛したいのなら、それこそさっさと
死神なんてやめて、新しい生を受けるべきだ。
今の状態で、どれ程何かを愛しても
得られるものは何もないのだから。
死神自身もそんな事は分かっていた。
それでも、今この、心と体を持った
この少年が愛しいのだ。
そう、この感情は “愛しい”
ともだちにシェアしよう!