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少年は健康にすくすく成長した。 でも、心は少しずつ何かが剥がれ落ちるように 小さな頃の明るさや活発さを失っていった。 彼の特別な目のせいで気味悪がられたり ウソつきだとイジメられたりするのも見た。 彼の変化を死神はずっと見続けた。 彼がクラスの女の子に小さな恋心を抱いたり 新しい家族となった人間や、普通の平凡な 家庭の友人に、遠慮やコンプレックスを 感じ始めたり。 そんな中で、彼の事を特別に思う存在が 確かに居ることも、死神は知っていた。 そして彼は少しずつ心も身体も大人に 近づいていった。 ある日彼は、体を売ってお金を稼ぐ事を覚えた。 相手は概ね男性だったけど、時には女性もいて… やってる事はもう大人と変わらなかった。 中学生の頃はバイトが許されず、新しい両親から もらう小遣いだけでは足りない事を 遠慮から口にできずにいた結果 そんな浅はかな行動に走ってしまったのだ。 死神は少なからず動揺していた。 俺の可愛いかった、あの少年が 俺を見つめていたあの目で男を誘って 俺にすがりついてきたあの腕を 今日会ったばかりの相手の首に絡ませる。 その場を目撃してしまった時は、頭を何かで 殴られたような衝撃だった。 ー ああ、もう彼は、俺の可愛い少年では なくなってしまった…。 本当は、まだ ただの子供なのに…。 少年は時々ボーっと空を見つめていた。 授業中や、電車の中、友達と一緒の時だって。 その視線の前に立って目を真っ直ぐ見つめても 彼の瞳はもう死神をとらえる事はない。 ボンヤリと死神を通りすぎて、そう… 何も見ていなかった。 もう一度、その目で見つめてほしい。 いつしか死神はそんな事を願うようになった。 それに何の意味も意義もなくていい。 ただ、自分を認識してほしかった。 1度でいい。もう一度、触れてほしかった。 彼が無気力に愛のないセックスを繰り返す度に その思いは、強く、狂おしく、死神の心を占領して いった。

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