132 / 140
23. 4
少年は健康にすくすく成長した。
でも、心は少しずつ何かが剥がれ落ちるように
小さな頃の明るさや活発さを失っていった。
彼の特別な目のせいで気味悪がられたり
ウソつきだとイジメられたりするのも見た。
彼の変化を死神はずっと見続けた。
彼がクラスの女の子に小さな恋心を抱いたり
新しい家族となった人間や、普通の平凡な
家庭の友人に、遠慮やコンプレックスを
感じ始めたり。
そんな中で、彼の事を特別に思う存在が
確かに居ることも、死神は知っていた。
そして彼は少しずつ心も身体も大人に
近づいていった。
ある日彼は、体を売ってお金を稼ぐ事を覚えた。
相手は概ね男性だったけど、時には女性もいて…
やってる事はもう大人と変わらなかった。
中学生の頃はバイトが許されず、新しい両親から
もらう小遣いだけでは足りない事を
遠慮から口にできずにいた結果
そんな浅はかな行動に走ってしまったのだ。
死神は少なからず動揺していた。
俺の可愛いかった、あの少年が
俺を見つめていたあの目で男を誘って
俺にすがりついてきたあの腕を
今日会ったばかりの相手の首に絡ませる。
その場を目撃してしまった時は、頭を何かで
殴られたような衝撃だった。
ー ああ、もう彼は、俺の可愛い少年では
なくなってしまった…。
本当は、まだ ただの子供なのに…。
少年は時々ボーっと空を見つめていた。
授業中や、電車の中、友達と一緒の時だって。
その視線の前に立って目を真っ直ぐ見つめても
彼の瞳はもう死神をとらえる事はない。
ボンヤリと死神を通りすぎて、そう…
何も見ていなかった。
もう一度、その目で見つめてほしい。
いつしか死神はそんな事を願うようになった。
それに何の意味も意義もなくていい。
ただ、自分を認識してほしかった。
1度でいい。もう一度、触れてほしかった。
彼が無気力に愛のないセックスを繰り返す度に
その思いは、強く、狂おしく、死神の心を占領して
いった。
ともだちにシェアしよう!