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23. 6
死神は少年に話してないことがあった。
別れの瞬間までついに話せなかった。
自分が消えたら、少年の記憶からも
死神の事は消えてしまう
当然、死神自身も、自分が死神の役目を終えた時
全ての記憶は消える。
少年と過ごした、わずかだけど幸せな時間は
無にかえる。
仲間から愚かで無駄な時間だと言われたのには
こんな事情も含まれていた。
消えると分かっている物に時間を使うなんて
愚かだと。
けれど全てが終わって、今
死神の心に後悔は微塵もなかった。
あの時間は
無意味なんかじゃなかった。
少年の部屋で静かに幸せそうに眠る彼を
死神は朝まで眺めていた。
そして自分が消えて、突然記憶が繋がらなくなり
彼が混乱しないように、死神自身が彼の記憶から
自らの存在を消した。
「言えなくてごめんね、晃太」
そっと触れるだけのキスを繰り返しながら。
「置いてかれたくないとか言ったのは
ウソだよ。無駄な時間なんて言ったのも…。
そんなの最初から分かってたし
どんなに晃太が変わっても一緒にいられたら
それだけで良かった。
でも、晃太はそれじゃダメなんだ…」
死神は気づいていた。
少年が、大切な友人に惹かれていることに。
そしてその彼を傷つけ、騙すような行為を
繰り返してしまう自分に嫌悪感を抱いている
事にも。
同じような思いを死神に対しても感じていて
どちらかを切り捨てる決断を躊躇っている事も。
全部気づいてた。
だから死神が動いた。
辛い決断は自分がすればいい。
「いつか人同士でやり直しできたらさ
やりたい事がたくさんあるんだよ。
遠くに旅行もしたかったし、ドライブも
したかった。一緒に学校へ行ったり
勉強もしたかったなぁ…。
自転車の後ろに晃太を乗っけて
カラオケ行ったりもしたかった」
静かに眠る少年の口が微かに笑って見えた。
それを見て死神も一緒に笑う。
「どれだけかかるか分からないけど…
いつか会えるよ」
言いながら立ち上がった。
彼の枕元で目覚まし時計が鳴って
条件反射で彼が慌ててそれを止める。
うっすら目を開けて手探りで携帯を手にして
画面を見つめ、伸びをしながら起き上がった。
ベッドの端に座って、死神と向き合う。
死神は息を飲んで彼を見つめた。
「ぁー 腰いて………何したっけ…?」
ブツブツ言いながら立ち上がると、彼は
死神に気づく事なく、部屋を出ていった。
彼の鳶色の瞳は、もう死神の姿を
捉える事はなかった。
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