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第2話

優也はパソコンと向かい合い、雑誌で連載中のコラム原稿を書いていた。 ただ、思うように進まないのか、コーヒーを口にしては天井を眺めることを繰り返し、そしてようやく指がキーボードを叩く始末だった。 …青葉さんをあまり待たせられないし、急いで書き上げないと。 そうは思うが、かと言って仕事に妥協もできない。 しばしの時が経ち、どうにかコラムを書き上げると、編集担当にメール。そして謝罪の電話をかける。〆切日をとうに過ぎていたのだ。これでダメ出しを食らっては目も当てられない。 優也に緊張感が走るが、担当からは概ね問題ないとの返答。何かあればメールをする算段をとり、安堵して電話を切った。 時計を見ると書き出してから1時間以上かかっていた。1時間かからずに書き上げるつもりだったのに。予定が狂い、少し険しい顔をしてしまう。 …まぁ、青葉さんだったら大丈夫でしょ。 そう自分に言い訳し、コーヒーを一口飲むとまっすぐに寝室に向かった。 カーテンを締め切った薄暗い寝室の電灯スイッチを入れる。ベッドにはうずくまった青葉がいた。優也は薄く笑い、青葉に近づく。 青葉は"卑猥"としか言いようのない姿だった。 全裸で後ろ手に縛られ、口には口枷。アナルにはアナルプラグが深く差し込まれ、そして陰茎にはコンドームの上からペニスリングがきつく締まっていた。 アナルプラグは僅かながらも振動し続け、静かな部屋に震度音が薄く響いている。全身にはうっすらと汗をかき、猛りを吐き出す行き場を求めているかのように切なげに腰を揺らしていた。 そんな青葉に優也は興奮し、堪らずそっと触れる。その瞬間、青葉の体が一瞬震えた。随分と敏感になっているようだ。優也の欲望をまとった笑みが止まらない。 「遅くなってごめんなさい。…腰を上げてください。」 己の興奮を隠し、優也は努めて優しく声をかけると、うずくまっていた青葉はノロノロと体勢を変える。両腕が縛られているため、優也に腰を突き出す格好になっており、卑猥さが際立つ。 「久しぶりだから細いのから始めましたけど、だいぶほぐれました?」 優也はアナルプラグを軽く前後左右に動かすと抵抗もなく滑らかに動いた。その刺激が気持ち良かったのか、青葉の腰が軽く跳ねる。 「大丈夫そうですね。新しいオモチャに変えようと思いますが。 …遅くなったお詫びもあるし、軽くイッちゃいますか?」 その言葉に青葉は嫌がる様子はない。 そんな従順な青葉を愛おしく思うと同時にイタズラをしたくなった優也は、激しくアナルプラグをピストンさせた。深く早く。性感ポイントに当たるように。 「んーーー!!!」 アナルプラグの緩慢な振動に慣れていたところにピストンによる大きな刺激は相当気持ち良かったのだろう。2、3回ピストンさせただけで青葉は体を震わせ、言葉にならない声を上げながら腰を落としてしまった。 しかし、軽く快感を楽しんだ程度では、青葉の捌け口は開かない。きつく閉じられ、いつ解放されるかは優也次第だ。それは分かっているのに。それでも出口を探し続けているように青葉の腰を揺れは止まらなかった。 「気持ち良かったみたいですね。でもダメですよ。腰を上げて。」 優也は意地悪く強めに青葉の臀部を叩く。青葉は一瞬体を震わせた後言葉におとなしく従い、再び腰を持ち上げて突き出す。 優也は、球体が連なっているようなアナルプラグを青葉のアナルから引き抜いた。すると、青葉の体は敏感に反応し、小刻みに震える。挿入する前に媚薬入りクリームを塗っていたため、引き抜くだけでも快楽が青葉の身体を襲っているのだろう。 新しい刺激を求めるかのように、青葉の腰は揺れ続け、アナルはまるで別の生き物かのように蠢いている。その姿は淫乱としか言いようがなく、優也の欲情をさらに駆り立てる。 優也はサイドデスクから新しいオモチャを取り出す。ローター2つとディルドー。 まずローターを1つずつ、優也の指が入る限界まで、青葉のアナルに深く押し入れる。肛門括約筋はだいぶほぐれているようでいとも簡単にローター2つが飲み込まれていく。そして、媚薬入りクリームを塗ったディルドをゆっくり差し込む。ローターと同じく抵抗なく飲み込まれていった。最後に、ローターの有線リモコンを固定バンドで青葉の両足に巻きつける。 青葉は終始嫌がる様子もなく、むしろ優也がしやすいように体勢を変え、新しいオモチャを受け入れた。いや、オモチャだけでなく、優也から何をされようとも全てを受け入れるつもりだろう。それは優也も知っていた。 「新しいオモチャ、痛くないですよね?」 優也は青葉を抱き起こし、優也の腕の中に座らせると、そう耳元で囁く。 青葉は静かに頷く。 「これも、もういいかな。」 優也は手慣れたように、青葉に装着されていた口枷を外した。 この口枷は、内側にディルドーのような棒状がついており、特殊な液体が絶え間なく染み出すようになっていた。その液体を吸収した皮膚は、刺激に反応し快感を生む効果がある。その効果なのか、口枷を外したあとも青葉の口はだらしなく半開きのままだ。 どの程度、薬が効いているのか確認するため、優也は青葉の舌を指でゆっくりと撫でる。途端、青葉は鼻にかかった甘い声を上げる。薬の効果は十分だった。 優也はローターのスイッチを入れる。少しずつ楽しみたいので強度は「弱」。それでもローターの振動は苛むような快楽を生み出すには十分なのだろう。青葉は腰を揺らして切ない声を上げる。 そんな青葉の姿に欲情した優也は、青葉の息さえも飲み込むかのように口を重ね、深く舌を絡ませた。途端、優也の腕の中で青葉は大きく痙攣し鼻から声にならない声がもれた。 下半身の中で生み出される止まることのない快楽に、敏感な舌を蹂躙されるという新たな快楽が加えられ、青葉は意識が飛びそうなのだろう。爪が食い込むほどに両手を強く握りしめ、両足の指でシーツを掴み、ベッドを踏みしめ耐えていた。 そんな青葉に気を留めることなく、舌を強く吸い上げたり、絡ませたりと、優也は青葉との深い口づけをゆっくりと楽しむ。 「いやらしい顔、だなあ。」 深い口づけを楽しんだ優也は青葉の頬を優しく撫でながら薄く笑う。優也の声が届いているのか、いないのか。優也との口づけから解放された青葉の顔は紅潮し、荒い息遣いの口は半開きのまま、虚ろな視線は宙を彷徨っていた。もう少しで達しそうなのに、と言わんばかりに腰も物欲しげに揺れている。 「…気持ち良いですか?」 青葉の乳首に爪を立てたり、乳輪をなぞったりしながら、優也は青葉の耳元で囁く。その問いに青葉は戸惑いがちに頷くが。 優也は青葉の顔を覗き込み、追い込む。 「ちゃんと声に出して言ってください」 青葉が愛おしい。もっと俺のことしか考えられないようにしたい。 そんな優也の欲望は、青葉の羞恥心を掻き立てることに向いていた。 「…気持ち…いい」 自分を真っ直ぐに見る優也から視線を逸らし、青葉は小さい声で答える。 そんな青葉の羞恥心をさらに駆り立てるかのように、優也は問いを重ねた。 「どこが一番気持ちいいですか?」 「……ゆう…やとの…キス…が気持ち良い」 青葉は羞恥心を飲み込んで本心を答える。 安易に答えることも頭をよぎったが、曖昧な答えが誤解や思い込みを生み、結果、2人とも苦しんだ過去があった。繰り返したくない思いから素直に答える。 優也は目を細めて嬉しそうに再び唇を重ねてきた。 「キスが好き」と答えたのだから必然であろう。一度目よりさらに深く、より長く。青葉は体を震わせ、出口のない快楽の中へ落ちる。 「青葉さん、…俺も気持ち良くなりたいです」 深い口付けから顔を上げると、そう言いながら、優也はジーンズのベルトを緩め始めた。状況を察した青葉は軽く頷くと、ベッドから降り、優也の股間に顔を埋める。 「口だけで出来ますよね?」 優也の加虐心がつい顔を出してしまう。青葉の困った顔も愛おしくて仕方ない。青葉の返答も聞かずに優也は自分の陰茎を青葉の口元へ近づける。 青葉は諦めたかのように、抵抗することなく器用に舐め始めた。 陰嚢を口の中で転がすように舐め、根元から先端へと丁寧に舐め上げ、陰茎を咥えると唇と舌を使い、ピストンする。時に早く、時にゆっくりと。 「久しぶりなのに上手ですね…もしかして俺以外に男います?」 「…全て…優也が…私に…教えたことだ」 「冗談ですよ。…先だけをもっと舌を使って舐めてください。」 「…ん」 自分が教え込んだとおりにフェラチオをし、上目遣いに話す青葉はとても卑猥で、優也はどんどん興奮していく自分を自覚していた。時々、縛られた両手をもどかしそうに動かす青葉の姿も優也の加虐心を煽る。 そんな青葉を見ぬふりをし、平静を装って青葉の髪を優しく撫でる。 青葉の舌は薬で敏感になっているのでフェラチオという行為だけでも充分すぎるほど青葉の中で快楽を生んでいた。 …きっと優也は分かったうえでさせているに違いない。 そう気づいていても止めることは出来ない。自分の舌と優也の陰茎が擦れるたびに全身に快楽が走る。そして、こんな卑猥な行為に快楽を感じているという羞恥心も青葉の快楽に拍車をかけていた。頭の芯がどんどん熱くなっていく。 …優也と早く繋がりたい、何も考えられないぐらい激しく突いて欲しい そう期待し、青葉は無意識にさらに腰を揺らしてしまう。 そんな、まるで売女のような青葉の姿を優也は見逃すはずもなく、さらに優也は欲情する。加虐心に歯止めがきかなくなっていた。 「気持ち良すぎて、歯を立てないでくださいね」 優也はディルドーのリモコンを手に取り、スイッチを入れると同時に一気に強度をMAXまで押し上げた。 「っああああ!!!」 ディルドーは青葉の性感ポイントを的確に捉えていたため、振動はダイレクトに青葉の快楽に直撃した。それは生易しいものではなく、苦痛さえも伴う快楽。 青葉は強すぎる刺激を受け入れることが出来ず、大きく体を反らすと床にうずくまる。そのまま痙攣が止まらない。 「これはダメぇ…だっ!嫌だぁ…っ!止めて…くれっっっ!」 優也の行為全てを受け入れるつもりであったが無理だった。拷問にも近い快楽が身体中を駆け巡り、動けない。床にうずくまったまま嘆願する。 が、優也は動じない。 「あぁ、すごく良いトコにディルドーが当たっているんですね。 …もしかしてイッちゃいました?」 「そう…っ…だが…っっっ!止まらないっ!!! 気持ち良い…のが…止まらないっっっ!!!」 一度絶頂を迎えても、規則的に動き続ける機械に、また強制的に追い詰められる。快楽という名の地獄。青葉の股間は悲鳴を上げ、どうにかかろうじて意識を持ちこたえている有様だ。 「…仕方ないなぁ。」 青葉が失神しては意味がない。 優也はリモコンの強度スイッチを半分程度に下げる。同時に青葉の体の動きも幾分か落ち着いたように見えるが。 「…優也ぁ…止めて…くれっ!…頼む…からっ!」 少しでもより楽になるため、青葉は床から見上げ嘆願し続ける。 しかし、強度を下げたことだけでも優也にとって十分譲歩しているのだ。 「何、甘えたこと言っているんですか?」 許すわけがない。優也の口調から怒りを青葉が感じた時には遅かった。青葉の髪と腕を掴まれ、無理やり上半身を起こされた。 「続けて。」 優也の言葉にもう逆らうことは出来なかった。 下半身の滾りを持て余しながらも青葉はフェラチオを再開する。舌からの快楽も再び生み出され始めた。 青葉は快楽に苛まれながらも早く終わらせたいという気持ちが強かった。丁寧に舐ることに集中していると、優也の息遣いが少しずつ荒くなっていることに青葉も気づいていた。 「このまま…出しますっ」 優也の絶頂が近いようだ。呼応するように青葉はピストンのスピードを速くする。 すると、優也は体を丸め込み、青葉の肩を掴むと荒い息のまま青葉に囁いた。 「いつものように、…俺の、一滴も零しちゃダメですよ。 あと、…今日は…飲んでもダメ」 そう言うと、優也は上半身を立て直し、青葉のピストンに合わせて腰を動かし始めた。 突然の言葉に驚く青葉だったが拒否は出来ない。優也の腰の動きはどんどん激しくなり、ペニスが青葉の喉を刺激し苦しくなる。 だが、皮肉なことに青葉の舌から生まれる快楽も増幅される。 「「んっっっ!!!」」 優也は青葉の頭を強く抱えたまま射精し、同時に青葉も優也を受け入れる。口の中を満たしていく優也の精子が苦しいが、吐き出さないよう必死に堪えた。 「見せて…ください」 肩で息をする青葉を優也は休ませる気はなかった。自分の陰茎を引き抜くと、強引に青葉に顔を上げさせる。快楽と苦痛によるものだろう。青葉は恍惚な表情だが、同時に涙で目が潤んでいる。 青葉が口を開くと、震える唇の中に溢れそうな白濁の液体が見えた。 優也は薄く笑いながら、青葉の頭を撫でた。 「ほんと、いやらしい顔、だなぁ」 青葉を見下ろす、支配者のような優也の笑顔。そんな優也を見ながら、青葉はこれから始まることに不安と同時に期待もしてしまっていた。 青葉を優也に導かれるまま、ベッドに押し倒された。 青葉は危うく口の中の精子を飲み込みそうになるが、どうにか堪える。 「口、開けて…ください」 優也に言われるがまま青葉が口を開けると、優也は指を差し入れ、舌を撫でたり、指と絡ませたりする。 わざとなのだろう、精子をかき混ぜて音も立てる。敏感な舌を刺激され、卑猥な音に耳が犯され、青葉の体に何度目か分からない快感が走る。 「青葉さんの口を指で犯しているみたい…」 そうつぶやくと、優也は青葉の舌に指を置くと激しく前後に動かし始めた。 刺激が大きくなれば快楽も強くなる。青葉はつい甘えるような声を出すと、呼応するように優也はスピードを加速させた。刺激と音が増幅され、当然、快楽も膨らむ。 「軽くでもイッたら飲んでいいですよ」 そう言うと、優也は空いた指で青葉の乳首なども弄び始めた。 生臭さが辛い青葉は早く飲み込みたいが、そのためにはキッカケとなる強い刺激が欲しかった。しかし未だに両手を縛られている青葉には手段がない。 仕方なく、ねだるように舌を差し出す。もっと刺激が欲しい、と。 青葉の意図が分かった優也の顔が緩む。 「もっと欲しいなんて、淫乱な口ですね。 …刺激が欲しいなら、これ、使っていいですよ」 青葉の手に握らされたものはディルドーのリモコンだった。青葉は狼狽するが、優也は気にも留めない。飽きることなく青葉の体を弄ぶ。 「んっっっ!」 意を決して、青葉はリモコンの強度を少し上げると、追加された刺激に体を震わせた。しかし達することは出来ない。まだ刺激が足りないのだ。 思い通りにいかないもどかしさと焦りで青葉は強度のスイッチを細かく上下する。それでもやはり達することが出来ない。 その時間は優也にとって長かった。 また、青葉の姿に苦い過去を思い出していた。負の感情全てを青葉にぶつけた、あの日。当時を思い出せば思い出すほど、今の青葉の姿と重ねて苛立ってしまう。 「青葉さんは"思い切り"が足りないんですよ。…いつだってそうだ。」 優也はリモコンを取り上げると迷いなく強度をMAXまで上げた。 「んーーーっっっ!!!」  激しい刺激で腰が大きく跳ね上がると、ベッドに落ち、青葉の動きが止まる。果てたようだ。青葉の目には涙も見える。その姿を見やると、優也はディルドーのスイッチを切る。 「…ゆっくり飲んで。」 その言葉に反応し、荒い息のまま、ようやく青葉は全てを飲み込んだ。 そんな青葉を見ながら、優也は我に返る。 …最悪だ。失敗した!!! 優也は内心焦っていた。 あの苦い過去は、どちらか一方だけが悪いということではなく、どちらにも非があった。そのため、最終的に、水に流そうと2人で話したこと。つまり、そのことにはもう触れないことが暗黙の了解になっていた。 それなのに、苛立ってしまったとはいえ、引き合いに出し、追い詰める行為をしてしまっていた。しかも苛立ちは自分に対しての苛立ちもあった。八つ当たりもいいところだ。 …いや、はっきり言ってはいないから、気づいていないかもしれない。 が、感づいている可能性も捨てきれない。 どちらにしても、確認してやぶ蛇になるのも御免だ。 時間にすれば僅かだが、深く悩んだ末、結局、「青葉は気づいていない」という甘えた考えを優也は選択した。しかし、後ろめたさがあり、青葉の顔を真っ直ぐに見ることが出来なくなった。 優也は青葉をうつ伏せになるよう促すと、ディルドーをゆっくり引き抜いた。擦れる感覚にたまらず青葉が小さく喘ぐ。肛門括約筋は締まりがなく、早く入れて欲しいと言わんばかりに蠢いていた。 …もっと楽しみたかったが、今日はもう終わりにしよう。 自分の行為に後悔し、優也は青葉に気づかられないようにため息をついた。 二人会が最後だからといって、二度と青葉と会わないということでもないし、むしろどうにかして会うつもりだったが、今は明確な今後の予定は無い。 次はいつ青葉に触れられるのかと考えるだけで淋しさがよぎってしまう。堪らず青葉の背中を撫でてしまっていた。 優也は青葉のアナルに指を差し入れると性感ポイントを探り当て、優しく刺激する。同時にローターの強度を上げる。青葉は反応し、体を小刻みに震わせながら小さく声を上げる。 頃合いを見て、優也はサイドデスクからコンドームを取り出し、準備をし始めたが、そんな優也に青葉は違和感を感じていた。 …いつもだったら、私につけさせるのに。 違和感は不安になりかけていたが、今日はそんな日なのだろうと違和感を押し殺した。 優也は青葉の腰を持ち上げるとゆっくりと挿入してきた。ディルドーで十分にほぐされていたため、青葉には快楽しかない。甘く上ずった声を出してしまう。優也もアナル奥で蠢くローターの振動が気持ち良いようだ。優也の熱い息を青葉も感じていた。 優也はゆっくりと腰を動かし始め、うつ伏せの青葉に覆い被さると、耳を甘噛みし、時に舐る。 その優しくて甘い愛撫に青葉は気持ち良さを感じていたが、それ以上に違和感が膨らんでいた。そして、その違和感はもう押し殺せなかった。 「…青葉さん、気持ち良いですか?」 そんな優也の囁く声も頭に入ってこない。頭の中で様々な考えが回っていた。しかし、体は正直で快楽を貪るため、考えが上手くまとまらない。 「…青葉さん?」 返事をしない青葉に優也は再び声をかける。その優也の言葉をキッカケに、青葉の思いが溢れた。 「…どうして? …あの時のことを…まだ怒っているのか? だったら!だったら謝るから!こんなの嫌だっっっ!」 感情を吐き出しながら、青葉はボロボロに泣き始めてしまう。 「今日はもうこれが最後なんだろ!? だったら!頼むから…!…なんでもするから!!! いつものように!手を解いてくれ! …そして、…お前の、優也の顔をちゃんと見たい!!!」 涙ながらに叫ぶ。 青葉は直感的に優也の言動から距離感を感じていた。それはつまり今日はもう体を重ねないということであるとも感じていた。 淋しさはないと言ったら嘘になるが、それよりも優也は必ず最後には優しかった。青葉が欲しているものを全て与えてくれた。それなのに、今日は最後の日なのに、なぜこのような仕打ちを受けているのか分からなかった。だから想いを吐露し、縋るより他なかった。 …敵わないな。 青葉の言葉を聴きながら、優也は驚いていた。 自分の言動から直感的に最後だと気づかれたことも、いつもと違う理由が、あの苦い過去が起因していると勘づかれたことも。 …あぁ、気持ちも体も繋がっているみたいだ。 やっぱりこの人が欲しくてたまらない。これからも。ずっと。 優也は軽くため息をつくと、青葉の両手を自由にし、耳元に顔を寄せる。 「ごめんなさい。泣かないで。」 言い訳なんていくらでも並べようがあったが、青葉には正直でいたかった。あの苦い過去をまた繰り返したくも無かった。 青葉の顔を持ち上げ、覗き込むように口づけをする。優しく丁寧に。それが許しを乞う行為だと青葉も気づいたのだろう。躊躇うこともなく優也のキスを受け入れた。 そして、自分を受け入れてくれる優しい青葉に優也はつい甘えてしまう。言える立場でもなく、むしろ、やり口が汚いとは優也自身でも思うが、、青葉の勘違いを利用できる、この機会を逃したくなかった。 「なんでもしてくれるって本当ですか?」 「…私に…できることなら。」 青葉は頷く。口走ったこととはいえ、たった今言ったことをすぐにそう簡単に翻すことは出来ない。 「俺のことを"愛している"って言ってください。ずっと。」 子供のようなおねだり。 でもそれは、優也が欲しくてたまらないもの。 そして、たとえ今は青葉にとって何の意味をもたない言葉だとしても、刷り込みでもいいからいつかそう思って欲しかった。 優也からの求めに驚きつつも、青葉は目を伏せながらも頷いた。 青葉にとって、妻にもほとんど言ったことのない言葉だった。 青葉の頷きを見た途端、優也の表情は明るくなる。まるで子供のように、屈託無く。 優也はすぐに青葉から体を引くと、青葉の体を仰向けに促す。そして、青葉の両足を持ち上げ、再び一つになろうとする。 が、直前で動きを止め、青葉を真っ直ぐに見下ろす。 「言って?」 茶目っ気ある言い方をしているが、優也の目は違った。誤魔化しは許さない目をしていた。 「…優也、愛してる」 躊躇いながらも青葉が口にすると、優也は嬉しいそうに体を沈めてきた。そして、抱きしめると、ゆっくり腰を動かし始めた。 「…んあっ!…ゆうっや!愛っしてるっ!」 少しでも言葉を止めると、優也はすぐに動きを止め青葉を諌める。そのため、優也が深い口付けでもしない限り、青葉は何十回とも分からず繰り返し発し続けた。 「優也っ!あんっ、愛し…てるっっっ!」 言葉を口にしていれば、優也はいつものように優しく快楽を与えてくれる。 そして、滅多に口にしない言葉を連呼することで、羞恥心や背徳感が入り混じり、青葉の快楽はより高まっていた。 当然のように青葉は優也の背中にきつく指を立てて抱きつき、両足ははしたなく優也の腰に回していた。 気がつけば、青葉の体奥深くで蠢くローターの強度もMAXになっている。生み出される快楽は青葉だけではなく、優也にも強く響いており、余裕はなかった。 青葉が絶え間なく口にする「愛している」という言葉も優也の欲情をより唆っていた。より深く快楽を貪り合う。 「優也ぁ!…もぅ!…優也ぁ!頼むから!…愛し…て…る!」 青葉は限界が近く、そして何を求めているか、手に取るように分かる。 …本当にキスが好きだなぁ。 やや呆れてしまうが、そんな青葉が愛おしいのは変わらない。優也は深く口づけし、舌を搦めとる。 青葉は嬉しそうにさらにきつく手足で抱きついてくる。そのまま、青葉のペニスリングをはずした。 「んーっっっ!!!」 口を塞がれている青葉は、声を上げることは出来ないが、恍惚な顔を浮かべ、体を震わせる。射精による開放感が全身を覆い、なんとも言えない心地よさに酔う。優也も少し遅れて絶頂を迎える。 荒い息のまま2人は離れることができない。いや、離れることが名残惜しいといった表情を浮かべている。しかし、体の熱を下がって行くと同時に、現実と向き合わなければいけなかった。 「…シャワーを貸してくれ。」 緩慢な手でローターを外し、優也の体を押しやると、青葉は立ち上がろうとする。 が、突然、優也が青葉を背中から抱きしめた。 「シャワーを使うのは良いですけど、まず女将さんに電話してください。 "二人会はシリーズで続くことになった"って。 "その打ち合わせで今日は帰れない"って。」 「…何を言っているんだ。今日で最後だと決めたじゃないか。」 慌てて青葉は振り返ると、優也は不敵な笑みを浮かべている。 優也の中では欲望が渦巻いていた。 …青葉さんとこれからもずっと一緒いたい。 そのためには青葉さんを追い詰めてでも、"今"、確約が欲しい。 青葉を手に入れるため、使える手段は全て使うつもりだったが、優也はおくびにも出さない。青葉の唇を優しく撫で始める。 「まぁそうですけど。でももう俺無しじゃあダメでしょう?」 「そんなこと…!」 青葉が言葉を言い終わらないうちに、優也は無理やり深く口づけをした。 青葉が抵抗できないよう、抱きしめるように両腕を押さえつけると舌を絡ませ、口内を舐る。自分の存在の大きさを嫌でも分からせるために。 青葉も抵抗しようとしたのは最初の一瞬だけだった。やっぱり優也の甘美なキスがたまらなく好きだった。頭の中が痺れる。 「…そんなこと、"ない"? "ある"でしょ? 女将さんはこんな"気持ち良い"キスしてくれないだろうし。」 青葉は反論できない。 優也の口元はイタズラっぽく笑っているが、瞳の奥は熱情のような欲情のような熱さを持っていて、否応無しに魅了されてしまう。 …いつも、こうだ。優也は勝手に強引に決めていく。 流されてはいけないと心に念じ、青葉はきつく目を閉じる。 「ダメ…だ。」 青葉は俯き、消え入りそうな小さい声で否定する。 この関係を続けたら、歯止めがかからないことが目に見えていた。 優也は小さくため息をつく。 自分の腕の中から逃げないことが、青葉の答えだと分かってはいたが、はっきりと口に出して言わせたかった。口にすることで、青葉自身に呪縛をかけたかった。 そのため、"逃げ道を作る"ことにした。そう簡単には逃げられない、逃げ道。 「それじゃあ、青葉さんが本当に嫌になったら、俺はいつでも身を引きますよ。 それまで、だったらいいでしょ?」 優也は青葉の耳を甘噛みしながら囁いた。そして、より一層きつく抱きしめる。優也の存在をより実感させるために。 …決定権を握らせたんだ。もう十分でしょ。 薄く笑い、再び唇を重ねる優也。 青葉は一瞬の躊躇のあと、抵抗することなく受け入れる。それが全てを物語っていた。 …優也から離れられない。 ゆっくりと丁寧に舌を吸われて絡まれ、心地良い口づけに酔いしれる青葉がそう自覚するには十分だった。 「…分かった。」 長く深い口づけのあと、どうにか聞き取れるほどの小さい声で青葉は呟く。 優也との関係が終わらない、それは背徳感をこれからも抱えていくことになる。快楽に勝てない自分の低俗さに気が重くなり、目を伏せてしまう。 そんな青葉とは対照的に優也は満面の笑みだった。 「良かったあ! とりあえず女将さんに"お泊りする"って電話してくださいね そのあとは、一緒にシャワー浴びましょうよ!」 優也に強引に手を引かれ、導かれる。 …今日の夜はとても長くなりそうだった。

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