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第7話
ー第6話からの続きー
「…青葉さん、起きて。」
優也の声で青葉は意識を取り戻す。そして、全身の痛みで先ほどまでのプレイを思い出し、つい優也から目を逸らしてしまう。
しかし、そんな青葉を特に気にも止めず、優也は青葉を椅子から抱き起こす。
「風呂に湯を溜めたので入ってきてください」
「…ああ。」
椅子から立ち上がり、よろよろと風呂に向かう。
湯船につかりながら青葉は改めて自分の体を確認すると、首輪以外は全て外され、蝋もあらかた剥がされていた。それがかえって首輪の存在が誇張され、青葉は羞恥心を感じる。
そして、首輪を外さなかったということは、まだ続くということを意味していた。酷い扱いを受けたのに、緊張と興奮を青葉は再び感じていた。
早く優也と繋がりたいと、はしたなく期待しつつも、身体中の痛みで動きが緩慢になり、全身を洗うにも時間をかかってしまう。ようやく風呂から上がり、部屋に戻ると優也が見当たらない。いや、すぐに気づけなかった。
気づいた時、驚きのあまり、青葉は言葉を失ってしまう。優也はベッドで寝ていた。おそらくすぐに起きるつもりだったのだろう。服は着たまま横になっていた。
「優也…」
そっと触れ、声をかけるが起きる気配はない。もっと強く体を揺さぶれば起きるだろうが、落語二人会のためにほとんど寝ていない日々を過ごしていたことを知っていたため、優也を無理に起こすことに躊躇した。
体は優也を求めていたが、睡眠不足の優也を労わりたい。葛藤の末、青葉は優也に布団をかけ、自分もベッドの反対側で丸くなった。体の芯は熱く、身体中の痛みでなかなか寝付けなかったが、やがて青葉も深く眠りに落ちた。
青葉が深夜に目を覚ますと驚く。青葉は優也の腕の中にいた。背後からは優也の規則正しい寝息を感じ、青葉を抱きしめるように優也の腕が目の前にある。そして優也の手は青葉の指と絡ませるように握りしめられていた。
優也が起きたことに気づかないほど泥のように自分が眠っていたことにも驚いたが、その時に起きなかった自分に青葉は恨めしかった。
しかし今更後悔しても仕方ない。優也が起きないよう、腕の中から青葉は抜け出しトイレに向かった。
…まだ痛むが、異常は無さそうだ
陰茎に触れるだけでも痛く、機能不全になったのではないかと心配したが、青葉は一安心しつつ、ベッドに戻る。
すると、優也が起きていた。薄暗い中、ベッドの上に片膝を立てて座り、青葉を見据えている。
「優也…」
青葉の頬は自然と緩み、声をかけようとした。
しかし、優也にまとわりつく雰囲気が普段と全く違い、青葉は言葉を続けることが出来ない。
…いつもは明るく、人懐っこいのに。
今の優也は闇に生きる人間かのようだった。感情を読ませない、冷たい瞳。人違いかと一瞬錯覚するほどだった。同様する青葉とは正反対に、優也の視線は青葉から離れない。
「…どこに行ってた?」
「…え」
低く、凄みのある優也の声。あまり聞いたことない声にも青葉は驚き、言葉が続かない。優也はゆらりと右腕を差し出す。
「…ここに戻って。」
「…あ」
一度踏み入れると戻れないような、危険な香りがし、青葉は動けない。どう取り繕おうか、そう思った矢先、優也が痺れを切らした。
「早く!!!」
優也はベッドを苛立たしく殴りつけ立ち上がると、青葉を強引に引き寄せ、ベッドに押し倒した。あっという間のことに青葉は抵抗もできない。そのまま青葉を背後から抱き寄せ、優也は寝付き始めた。
「嫌な夢、見たから…」
「…嫌な夢?」
優也の変わりように、青葉は聞かずにいられなかった。
「ん、ガキん時の…」
「…どんな?」
「…言いたく…ない」
そのまま優也は規則正しい寝息を立て始めた。
しかし、青葉は寝られなかった。思い出してみると、優也の過去は何一つ知らなかった。思い出話になっても、いつもはぐらかされていた。また、優也の親は弟子入り以来、一度も会ったこともなかった。真打ち昇進パーティーも欠席していた。
…気にはなるが、もう未成年でもないのだから、無闇矢鱈に詮索して聞くことではないか。
そうは思いつつも、青葉の心は晴れなかった。しかし、疲れからか、やがて青葉も眠りに落ちた。
青葉が目覚めると、ベッドに優也はいなかった。視線を彷徨わせると、優也はソファでタバコを燻らせている。
「ああ、起きました?」
青葉が起きたことをめざとく見つけた優也はタバコを灰皿に置き、笑顔でベッドに歩み寄る。
…いつもの優也だ
青葉は内心安心しつつ、起き上がる。身体中は痛いままだ。
優也は青葉を背後から抱きしめる。外国製タバコの独特の匂いが青葉にもまとわりついた。
「昨日はごめんなさい。
少しだけ寝るつもりだったのに、二人会が終わって、緊張の糸が切れちゃったみたいで。」
青葉は黙って首を横に振る。
「…それで、一つ聞きたいことがあって。
俺、夜中に青葉さんと話しましたよね?何、言ってました?
寝ぼけていたから、よく覚えてなくって。」
「…特に何も。」
青葉は直感的に本当のことを言ってはいけない気がしていた。優也は青葉の耳元に口を寄せる。
「どうして隠すんです?何かマズいこと、俺、言いました?」
下手に嘘をついても誤魔化せない。青葉は口を開く。
「子供の頃の夢を見たって言っていたよ」
「…それで?」
「それだけだ。」
青葉は固唾を飲み、優也の様子を伺う。
「…本当に?」
「嘘を言っても仕方ないだろう。…何かあったのか?」
青葉はわざと掘り下げる。核心の話を聞けるならそれも良し、優也が話題を変えるならそれも良しだった。
「…いえ、何も。」
優也は後者だった。薮蛇と思ったのか、夜中の会話についてもう触れてこなかった。代わりに、優也は青葉の首輪を弄び始める。
青葉が着ているバスローブの襟元を開いてはだけさせると、優也はゆっくりと青葉の背中に舌を這わせ、赤く腫れ上がった跡をゆっくりなぞる。まるで自分の所有物を確認するかのように。腫れた箇所を触れるたびに青葉の体は一瞬震え、耐えるかのように青葉は俯いた。優也は再び優也の耳元に口を寄せる。
「首輪を自分で外していないってことは、ヤリたいってことですよね?」
青葉は何も答えない。優也は薄く笑う。
「俺の仕事の都合で悪いんですけど、今日、あまり時間に余裕が無くって。
起きたばっかりですけど、…舐めてもらえます?」
青葉は一瞬躊躇するも、体勢を変え、優也の股間に顔を近づける。震える指で下着から陰茎を取り出すと、舐め始めた。以前、優也に教えられた通り、根元から先端に向けて丁寧に舐め上げ、舌先や唇で亀頭に刺激を与える。
優也は熱い息を吐きながら、青葉の髪を優しく撫で、背中の赤く腫れ上がった跡を優しくなぞる。やがて、手のひらにローションを出すと、青葉の臀部の溝から指をゆっくり這わせ、そのままアナルに指を差し込んだ。馴染ませるように指をピストンさせる。
青葉の体が僅かに震え、甘い吐息が漏れる。
アナルを緩々とほぐしたあと、優也は青葉の陰茎に触れる。途端、青葉の体が大きく震える。
「…痛いですか?」
青葉は上目遣いに優也の顔を一瞥すると黙って頷き、フェラチオを続ける。
「でも、もう女将さんとはセックスしていないんですよね。だったら問題ないでしょう?」
優也は青葉の臀部を優しく撫でる。
「…それに、オナニーもこっちじゃないともう満足できないでしょ」
優也は再びアナルに指を差し入れピストンさせ始めた。
青葉は何も反論できない。図星だった。優也と身体を重ねた夜を思い出してはアナルに指を立てて自慰行為をしていることを見透かされているようで、青葉は羞恥心に身体を震わせ、熱くなる。
優也と早く繋がりたい一心で、フェラチオは止まらない。昨夜のイラマチオの経験が早速活かされているのか、少しでも喉奥深く咥えようとしている有様だった。
「青葉さん、無理しなくてもいいですよ。それよりも、これ。」
優也はコンドームを手渡す。青葉は手慣れた様子で開封し、器用に陰茎に装着させる。コンドームの上からもまたゆっくり舐め始め、青葉の唾液がいやらしく光に反射する。
「今日は上に乗って欲しいかな。」
優也は明るい声でそういうと、首輪の鎖を引き上げる。無理やり顔を上げさせられた青葉は軽く息が上がり、顔が紅潮し始めていた。
横になった優也に青葉は跨ると、ゆっくり腰を下ろし、優也の陰茎を迎え入れた。久しぶりに優也と繋がることを喜ぶかのように甘い声を上げ、腰を震わせる。そのまま腰を動かそうとした時。
「俺より先にイっちゃダメですよ」
残酷なまでに優也の声はいつもように明るい。青葉は驚き、優也の顔を見る。しかし優也は変わらない。
「俺を先にイカしてください。」
優也の顔は笑みを浮かべているが、拒否は許さない雰囲気も漂わせていた。
青葉はきつく瞼を閉じ、腰を上下させ始めた。
「んっ…くぅ…」
優也の気持ち良いスピード、角度、締め付け具合、それぞれを青葉なりに考えて必死に腰を振るが、優也にその気配はない。優也は青葉の大腿部を優しく撫でたり、乳首を指先で転がしたりして楽しんでいた。
「このままだと時間切れになっちゃいますよ」
その優也の言葉に青葉は慌て、さらに腰を激しく振るが、内部を陰茎で擦り上げられる刺激がさらに増し、快楽に溺れそうになる。青葉が先に達しそうで、必死に堪える。
「んぅっ!もぅっ!…んっ!」
次第に青葉は前のめりに崩れ、まるで優也の胸に顔をうずめているかのようにして腰を振り続けていた。
優也は青葉の髪を優しく撫でると、顔を持ち上げた。久しぶりの快楽に抗えなかったのだろう。視線は定まらず、口は半開きになり、恍惚とした顔をしていた。
優也は昂り、つい笑顔が出てしまう。
「青葉さん、本当、良い顔をしますねぇ」
「…はぁっ…ゆう…や…もぅ…」
優しく頬を撫でる。
「もっと意地悪して欲しいですか?」
優也の加虐心が止まらない。しかし、青葉は必死に顔を横に振る。
「まぁ、元々、俺が昨日寝てしまったのが原因ですしね…。
これ以上無理なら"おねだり"していいですよ」
青葉は首を小刻みに縦に振った。
「ゆう…や…、口を…開けて…くれ」
「はい、どうぞ」
優也は微笑みながら口を軽く開き、舌を僅かに出す。青葉は上半身そして首を伸ばし、優也と唇を重ねた。そして、優也の舌を必死に舐める。
「もぅ!…くぅっ…んっ…た…のむ…から!」
腰を振りながら、深く口づけしている様は卑猥としか言いようがなかった。
優也が青葉の臀部に両手を添えると、ゆっくり揉みしだく。昨夜鞭打たれた臀部の痛みがアナルの快楽に混じり、青葉の身体が震える。
そのまま、腰を上下する動きを優也は強引に誘導し始めた。ギリギリまで引き抜くと一気に腰を落とす。しかも、青葉にとっては快楽で意識が飛んでしまいそうになるほどのテンポで。青葉は優也に導かれるまま腰を動かすが、再び優也の胸に顔を埋め、甘く上擦った声を出す。
「い…やぁっ…だっ…!気が…くる…う…!」
「青葉さん、これくらいで動いてくれると嬉しいです。…さあ、下りてください。」
優也から何も言われていないが、青葉は仰向けになり、物欲しそうに足を広げる。この体位が良いと甘えているようだった。優也は苦笑しつつ、青葉の足を持ち上げ、再び挿入した。青葉は上擦った声を上げ、待ち焦がれていたかのように手足を優也に絡ませた。
優也はゆっくりと腰を動かし始める。
「青葉さん、俺の"たちぎれ"、少しだけ変えたの気づきました?」
快楽に浸る青葉は思考がまとまらず、まともに昨日のことを思い出せない。微かに首を横に振る。
「"番頭"が"若旦那"を蔵に閉じ込めるでしょ。
本来、"芸者"への金の使い込みが理由だけど、俺のには嫉妬心も入れたんです。」
優也は少しずつ腰の動きを早める。
「使い込まれたのは店の金ですよ。自分の金じゃない。
蔵に閉じ込めるぐらい、番頭は何かしらに嫉妬していると思うんですよね。」
優也は青葉の耳元で囁く。
「もし俺が"番頭"で、青葉さんが"若旦那"だったら、俺、『悪い虫がついた!』って閉じ込めますよ。
…誰にも会わせない。俺だけのものだから。」
冗談とも本気とも分からない声に、快楽に身を委ねながらも、青葉は戸惑う。
優也はクスクス笑いながら、話を続ける。
「もし俺が突然いなくなったら、青葉さんには"芸者"みたく、毎日手紙を、あ、今はメールか、毎日メールして欲しいなあ。
そして、最後は恋煩いで死んで欲しい。…いや、恋煩いで死にそうなのは俺か。」
優也の言葉に青葉はなんと言えば良いか分からない。理性を必死に動かすが、快楽に負けてしまう。
困惑している青葉の顔を見て、優也は笑う。
「冗談ですよ」
優也は青葉と唇を重ねると、腰の動きを早めた。青葉はあっという間に快楽に飲み込まれ、何も考えられなくなった。ただ、快感に酔いしれ甘美な声を上げ続けた。
やがて2人とも絶頂を迎えたが、荒い息のまま、優也は青葉を離さない。離れがたかった。
「青葉さん、俺と一緒に暮らしましょうよ」
青葉が受け入れないことは知っているのだろう。優也は独り言のように呟く。そして、思っていた通り、青葉は黙って首を横に振った。それでも優也は笑いながら言葉を続ける。
「ですよねー。
…今まで誰かと一緒に寝て熟睡することなんてほとんど無かったのに、青葉さんとならよく眠れるから。
ダメ元で言ってみました。
…まぁ寝ぼけて余計なことを言うみたいだけど。」
青葉は迷いながらも口を開く。
「…二人会が終わるまでだったら、…たまには泊まれると思う」
それは、優也にとって何も変わらない"いつものこと"だった。しかし、それはもう落語の稽古を理由に"おあずけ"されることは無いということでもあった。優也の顔が明るくなる。
「来週、俺の家で二人会の反省会をしましょうよ。
俺の落語に問題ないなら良いですよね?"いつも"通りに戻りましょうよ」
"反省会"は会うための口実、見え透いた嘘だとは分かっていたが、それでも青葉は頷くしかなかった。
「…これからも落語の手は抜かないで欲しいが。」
「もちろん、分かっていますよ」
優也は笑顔を浮かべて、首輪の鎖を弄びながら青葉の顔を取り、深く口付けした。
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