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第8話

まるで赤ん坊の表情のようにコロコロと天候が変わる日が続く季節。 前日まで寒い日が続いていたが、その日は快晴のうえ例年に比べずいぶんと暖かく、散歩にはうってつけの日だった。 青葉が優也のマンション前に到着すると、5歳ぐらいの男の子とその子の両親と思われる家族連れがマンションから出てきた。今から公園にでも行くかのようなラフなスタイルで、男の子の一挙一動にみんなで笑いあっている。見ているだけで青葉の頬も緩む。 マンションエントランスに入ると、慣れた手つきでエントランスの自動ドアを解除し、優也の部屋へと向かった。 主催する落語二人会への出演との交換条件で、青葉が優也と肉体関係を持ってからずいぶん日が経つ。本来なら数日前にも会う予定だったが、優也が熱を出し、中止となっていた。ただ、優也の性格上、延期日程を早々に決めたがるはずなのに、それ以来、全く連絡がなかった。電話しても「また連絡する」の一点張り。 もしかしたら病気が重症で寝込んでいるのではないかと心配になり、青葉は優也のマンションに来ていた。 そして、状況次第だが、青葉は優也に話したいこともあった。今回の予定中止に際し、「少しでも会う機会を減らせて良かった」と安堵しつつも、優也と触れ合えないことで体には空虚感があった。その相反する感情が混在していることに戸惑いつつも、青葉は理性で押さえつけていた。 しかし、交換条件となっている落語二人会は残り数回。落語二人会と同時にこの関係も終わるのだから、その時にこんな矛盾した感情で苦しまないよう、できれば少しでも距離を置きたかった。 マンションの合鍵を渡されていた青葉は、エントランス同様、迷うことなくドアを開錠し、部屋に入る。薄暗い廊下の先、寝室から僅かな光が漏れていた。 「優也…」 寝室のドアを静かに押し開けた青葉は驚いた。上半身裸の優也が寝ているベッドの横に若い女性がいた。ベッドに顔を伏せて寝ている。 驚き、動揺した青葉は手に持っていたスーパーマーケットの袋を落としてしまい、大きな音を立てた。その音は寝室にも響き、反射的に起き上がった優也と青葉は視線が合ってしまう。 「っ!…すまないっ!」 スーパーマーケットの袋を慌てて手に取ると、青葉は急いで玄関に向かった。 青葉は自分が恥ずかしかった。優也に彼女がいないと思い込んでいたこと。事前に連絡せずに訪問しても問題ないと思い込んでいたこと。一人で寝込んでいるのだろうと看病する気になっていたこと。優也と付き合っているわけでもないのに、勝手な思い違いをしている自分が恥ずかしかった。 同時に、優也が若い女優と密会している週刊誌記事が最近また出たことを青葉は今さら思い出していた。その女優と優也が交際しているかどうかは知らなかったが、交友関係が広く、有名人である優也を看病する女性がいることなど、少し考えれば分かることだった。それなのに、そこまで思いが至らなかった自分自身に青葉は落ち込んだ。 そして、ベッドに付き添っていた若い女性と自分を比べ、チリチリと胸の奥が焼かれることにも目を背けたかった。 早くこの空間から逃げ出したかったが、慌てていて指がもたつき、すぐに靴を履くことができない。 その時、ドアを開く大きな音が青葉の背後から響いてきた。 「青葉さん、待って!!!」 上半身裸で下着一枚の優也が寝室から飛び出してきた。青葉を背中から覆うように抱きつく。 「風邪うつすの…嫌だったから…連絡しなかったのに…。 青葉さんが…自発的に…俺の家に来てくれるの…初めてだから、…すごく嬉しい。 …帰らないで…くださいよ」 「いや、邪魔してすまなかった。日を改めるよ。」 恥ずかしさのあまり、青葉は優也の顔を見ることが出来ない。悟られないよう、靴紐を結び直しをしているかのように視線を落とし、出来る限り冷静に話す。 対称的に、青葉の耳元で感じる優也の呼吸は早く、熱く、荒い。優也の声もかすれ気味で、息苦しそうに話し続ける。 「…邪魔?…あぁ、あの女はすぐに…帰らせますから。」 「突然来た私が悪いんだ。帰る。離しなさい。」 少しでも早く逃げ出したくて堪らず、青葉は優也の手を解こうとするが、青葉の服に優也の指はきつく食い込んでいた。 「嫌だ。」 優也は強引に青葉の体を引きずり戻す。しかし、青葉の体は僅かに動く程度で、優也の腕の中に青葉が倒れこんでしまった。突然のことに青葉は驚き、優也を見上げる。 しばらくぶりに見る優也は、いつもの優也とはまるで違っていた。熱に浮かされた顔は赤く、目は潤んで瞼も重そうにし、荒く呼吸を繰り返していた 。衝動的に青葉は優也の首を触り、体温を確認していた。 「病院には行ったのか!?薬はあるのか!?」 青葉は優也のことをつい子供扱いしてしまうが、優也は楽しそうに笑い、頷く。青葉はやや落ち着きを取り戻すが、不安な表情は隠せない。 「早くベッドに戻りなさい」 「青葉さんが…一緒じゃないと…嫌です」 熱で苦しいはずなのに、抱きしめる腕の力はどんどん力強くなる。それは、優也の意志の強さの表れでもあった。ここまで頑なになった優也に青葉がどんな言葉を並べても首を縦に振る可能性は低かったし、確実に首を縦に振らせる言葉も思いつかなかった。青葉はため息をつくと、優也の腕に触れる。 「…分かったから。まず服を着なさい。体調が悪化する。」 「…あぁ、そうですね」 青葉は優也に腕をひかれて立ち上がると、リビングに移動しソファーに座った。優也は青葉の顔を覗き込む。 「ちょっと…待っててください。絶対に…帰らないで…くださいよ?」 「…あぁ。」 青葉は小さく首を縦に振る。 優也が寝室に戻りドアを閉めた途端、男女の言い争うような声がリビングに響いてきた。 …こんなことをさせるつもりはなかったのに。 優也に対しても、見知らぬ女性に対しても、青葉は罪悪感で胸が痛む。そして、思い違いしていた自分に苛立つ。青葉は自然と俯き、ソファーに指を立てていた。重苦しい空気の中、青葉は時間の流れを長く感じる。 ふとリビングテーブルに置いてある雑誌が青葉の視界に入る。優也のインタビュー記事が載っている雑誌で、青葉も既に読んでいた。 ここ数ヶ月で優也のメディアへの露出はさらに増え、知名度とともに人気も高くなっていた。比例するように、真打ち昇進したばかりの頃に比べ、立ち居振る舞いにも堂々とした華やかさや貫禄を併せ持つようになっていた。青葉でさえ、時折、気後れするほどに。 華々しい芸能活動に、青葉は師匠として嬉しかったが、落語二人会以外での落語が疎かになっていることや、女性との交際関係がずっと落ち着かず派手なことも残念だった。そして、人気で引く手数多だろうに、どうしていつまでも自分と肉体関係を持ち続けたがるのか青葉には不思議だった。 そんなことを考えていると、寝室のドアが派手な音を立てて開く。続いて小走りする足音、そして、僅かな間をおいて玄関ドアを乱暴に開閉する音がした。青葉は動くことが出来ない。 やがて青葉に近づいてくる足音が聞こえてきた。 「青葉さん、…俺、…すごく嬉しい」 青葉が顔を上げると、ほぼ同時に優也が抱きついてきた。風邪をひいているせいか、優也の体温を高く感じる。 「たかが風邪なのに、…なかなか治らなくて。でも…たまには…病気になって…みるもんですね」 優也は青葉の首に顔を埋める。優也は大きめのパーカーを着用し、そしてマスクをつけていた。パーカーは洗いたてなのか、柔軟剤の良い匂いが青葉の鼻腔を刺激する。 マスクをつけていたが、優也の上機嫌さは青葉に伝わっていた。やや掠れた声も高調子で、青葉を抱きしめる腕の力は先ほどと変わらず強い。 しかし、そんな優也とは対照的に青葉の表情は沈んでいた。 「突然、押しかけてしまって、すまなかった。…帰った女性は大丈夫なのか?」 おそらく怒って帰ってしまったであろう女性が青葉にとって気掛かりだった。しかし、優也は気にも留めない。 「そんなこと…どうでもいです。…それより、…何を買ってきて…くれたんですか?」 優也は咳き込みながらも、嬉しそうにスーパーマーケットの袋を覗き込んだ。そんな優也を見ながら、青葉はため息をつく。女性をぞんざいに扱う優也は今に始まったことではないが、どうしても説教じみたことを言ってしまう。 「女性をちゃんと大事にしないと。いつか本当に付き合たい女性が現れた時に…」 「今日はそういう話したくないです」 優也は露骨に不機嫌そうな声を上げ、青葉の言葉を遮る。青葉は圧倒され口を噤んでしまう。"余計なお世話"と言われれば、それまでだ。何も話せない。 優也は再び上機嫌になり、スーパーマーケットの袋の中を物色すると、リンゴを取り出す。 「これ、食べたいです。…皮を剥いて…ください」 「…えっ」 「俺、病人だから。…甘えていいですよね?」 優也は目を細める。しかし青葉は視線を逸らす。 「…すまないが、…その、今まで一度もまともに包丁を握ったことがないんだ。」 優也は目を見開き驚いた様子を見せるが、すぐに目を細める。 「じゃあ、…俺が教えますよ」 優也は嬉しそうに青葉の手を引き、キッチンに向かった。しかし青葉は戸惑う。 「もう横になった方がいい。一人でやってみるから。」 「これくらい…大丈夫ですよ」 優也はこともなげにそう言うと、青葉に包丁とリンゴを手渡し、背中から抱くように立つ。青葉は自然と緊張し、唾を飲み込む。 青葉の両手に優也は両手を重ね、耳元に顔を寄せる。 「親指は…ずっと皮と刃を押さえる感じで…刃は斜めにキープして…ゆっくり押すように…」 青葉は優也の言うよう、辿々しくリンゴを剥き始まる。剥かれていくリンゴの皮はだいぶ波を打ち、何度も途切れてしまうが、それでも少しずつ進めていく。 しばらく青葉の手つきを優也は眺めていたが、問題ないと思ったのか、青葉の体を抱きしめ、肩に頭を乗せた。優也の荒い呼吸が青葉の耳に入ってくる。青葉は心配になり優也を見ると、視線がかち合った。優也は笑顔を見せる。 「…料理するの…初めてなんですよね。青葉さんの…初体験をもらえて…嬉しいなあ」 「そんな子供みたいなことを…。大体、リンゴの皮剥きは料理に入らないだろう」 「たしかに、…そうですね」 優也は嬉しそうに笑う。 青葉もつられて笑ってしまう。 初めて包丁を扱う経験も新鮮だが、久しぶりに優也と触れ合う居心地の良さは否定できなかった。しかし、青葉の理性は、この関係は歪なものだと、そしてこれ以上進めば肉体関係だけだと割り切れなくなると、警告を出し続けていた。 青葉は意識的に視線を戻し、リンゴの皮むきを続ける。 「優也は料理を頻繁にするのか?」 「…今はあんまり。…でも、小さい頃、…嫌でも料理していましたから」 「…小さい頃、か。」 ほとんど過去を語ることがない優也に、過去のことを聞いて良いのか青葉は躊躇う。それでも意を決して話そうとしたが、先に口を開いたのは優也だった。 「青葉さんは…今まで一度も料理したこと無いなんて…"食"にあまり興味ないんですか?」 「…そうなのかも、しれないな。」 唐突に優也は青葉の唇を優しく撫で始め、そして耳元で囁いた。 「俺の唇や舌を食べそうなぐらい、…いっつもキスは大好きなのに。」 青葉は慌てて顔を背け、優也の指から逃れる。反論できなかった。無意識に唇を噛む。 優也はクスクスと笑う。 「…青葉さん、…キスしましょうよ」 青葉は首を横に振る。 「今日は看病しにきたんだ」 まるで自分にも言い聞かせるような口ぶり。青葉は視線を落とし、皮剥きを続けようとした。 しかし、優也は青葉の顎を持ち、強引に振り向かせる。 「そうですよねぇ。…キスしたら…風邪うつるかもしれないし。」 優也はマスクをしたまま、青葉と唇を重ねた。唇を甘噛みする感触はマスクの布越しでも青葉に伝わる。 青葉は慌てて顔を背けた。 「やめないか!」 優也は笑いながら引き下がると、再び青葉の肩に頭を乗せる。青葉はため息をつき、まるで何もなかったかのように皮剥きを再開した。 しかし、青葉の顔はうっすらと赤く、指は震えている。そして、マスク越しに甘噛みされた下唇を無意識に噛んでいた。優也は一瞬驚き、咳き込みながらもクスクスと声に出して笑ってしまう。 青葉は優也に視線を送る。 「剥き方が何か間違っているのか?」 気づきそうにもない青葉が愛おしく、優也は声に出さないように笑い続ける。 「…いえ、何も。…続けてくださいよ」 戸惑った表情のまま、青葉はリンゴへと視線を落とす。 優也はより力を込めて青葉を抱きしめ、青葉の下唇を優しく撫で続けた。青葉は拒否することが出来なかった。 「できたぞ」 時間はかかったものの、リンゴの皮剥きが終わり、青葉は嬉しそうに声を上げる。見た目は歪だったが、リンゴの果肉が露わになっていた。 優也は再び青葉の両手に自分の手を重ねると、リンゴを切り分ける。青葉は自分の意思で両手を動かしていなかったが、優也に手を握りしめられている感触や体温が気持ち良く、つい身を委ねてしまっていた。気づかれないよう、横目で優也の横顔を見てしまう。 やがて優也は器用にリンゴを8等分に切り分けた。 「…あとは…こうやって…芯の硬い部分を切り落とせば…終わりです」 優也は青葉の手に重ねたまま、一切れだけ包丁を入れ、芯の部分を切り落とした。 青葉は頷く。 「あとはもう大丈夫だから。もうベッドで寝ていた方がいい。持っていくよ。」 「…嫌だ」 優也は再び青葉を力強く抱きしめる。 「…このまま…一緒にいたいです」 優也の気持ちに青葉は心が締め付けられるが、ずっと荒い息を吐き続ける優也に同意できなかった。 「随分と苦しいんだろう?寝ている間に勝手に帰ったりしないから。」 優也は何も答えない。 青葉は言葉を続ける。 「…もう薬は飲んだのか?」 「…んー、…昨日」 青葉は深いため息をつく。 「人のことは心配するのに、どうして自分の体は大切にしないんだ。…薬はどこにあるんだ」 「…ベッド」 「だったら、なおさらベッドに戻って薬を飲みなさい」 問い質すように青葉はきつく言う。しかし、優也は青葉を強く抱きしめ笑う。 「青葉さんが…俺のこと心配してくれるの、…すごく嬉しい」 青葉はさらに心を締め付けられるが、自分の気持ちに気づかないふりをするしかなかった。 「別に今始まったことではないだろう。昔から弟子の健康には気を遣っているつもりだ。」 優也の腕を青葉は軽く叩くと、手を重ねた。 「…すぐに行くから」 「…ん」 ようやく納得した優也は腕を解く。冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出すと寝室に向かった。 青葉は安堵の表情を見せると、残り7切れの芯を切り落とした。 青葉が寝室に入ると、薄暗く、そして香水の匂いがする。先ほどまでいた女性がつけていたであろう香水の匂いは甘ったるく、まとわりつくようだった。罪悪感が青葉の中で再び込み上げてくる。しかし、もうどうしようもないと、深呼吸して振り払う。 ベッドサイドのテーブルを見ると、缶ビールや栄養ドリンク、お菓子の空き袋などを押しやるようにして、空になった薬の個包装と、飲みかけのペットボトルやマスクがある。青葉は一安心とばかりに一息つくと、ベッドサイドテーブルにリンゴをのせた皿を置き、ベッド脇に腰掛けた。 「起きられるか?」 「…ん」 毛布にくるまっていた優也は、青葉に視線を投げると、ゆっくりと上半身を起こし始める。その動きが辛そうに見えた青葉は、優也を支え、ヘッドボードを背もたれにするよう起き上がらせた。 「他の果物も持ってこよう」 青葉はベッドから降りようとした。しかし、今まで緩慢な動きを見せていたとは思えないほどの力強さで優也は青葉は強引に自分の腕の中に引き寄せる。突然のことに驚き、そして抵抗する暇もなく、青葉は優也の腕の中にいた。青葉の髪に、優也の熱い吐息がかかる。 「優也!」 「…リンゴ、…食べさせてくださいよ」 「子どもみたいなことを言うんじゃない。…離しなさい。」 「嫌だ」 青葉は優也の腕の中から逃れようともがき、優也の体を押しやるが動じる気配はない。むしろ強く抱きしめられ、2人の間に腕を入れてわずかな隙間を作るだけで精一杯だった。 「優也!」 青葉がきつい視線を送っても優也は無言のまま。荒い息を吐きながら、ずっと薄く笑っている。そして、瞳からは揺るぎない意思を感じさせていた。 いつものように、青葉が折れるしかなかった。 「…分かった。」 青葉の了承する言葉を合図に優也の腕は緩む。 青葉はベッドサイドに手を伸ばすとリンゴ一切れを取り、優也の口元に運ぶ。その青葉の手は微かに震えていた。気づいているのか気づいていないのか、優也は嬉しそうに一口食べる。 「…美味しい」 優也が笑顔を見せると、青葉も安心し、つい笑顔になってしまう。やはり嬉しいものだった。 少しずつ食べ進め、リンゴは最後の一口分だけとなる。青葉は優也の口元にリンゴを差し出した。しかし優也は食べようとしない。不思議そうに青葉が優也に視線と送ると、優也は舌舐めずりすると同時に青葉の手を握りしめた。そしてリンゴと共に青葉の指を口に含んだ。 「優也!」 青葉は反射的に手を引こうとするが、優也の力が強く逃れられない。優也は含み笑いをすると、青葉の諌める声をものともせず、青葉の指に舌を絡ませ、ゆっくりと舐める。舐めながらも優也の視線は青葉の目を捉えて離さない。 青葉は優也の口内を傷つけたくないので指を動かすことができなかった。そして、優也の行為に戸惑いながらも、優也の舌遣いに今まで何度も重ねてきた深い口づけを思い出し、体の芯が熱くなりそうだった。青葉は慌てて目を背ける。 優也はイタズラっぽく笑うと、ようやく青葉の手を解放した。青葉は慌てて手を隠すが、顔を背けたまま、優也の顔を見ることが出来ない。 「もういいだろう!?」 青葉はベッドから降りようとするが、優也は青葉を逃すつもりはなかった。再び強く抱きしめ、青葉の耳元に口を寄せる。 「キッチンで気づいたけど…青葉さん、…シャワー浴びてきてますよね?…なんとなく…良い匂いがする」 図星だった。見透かされた青葉は恥ずかしくなり俯く。何か言い訳しようと思うものの、全てが恥の上塗りになりそうで言葉が続かない。優也は含み笑いをする。 「…本当は…青葉さんが期待していたように…セックスしたいけど。 …今日は風邪で体が重くって…ごめんなさい」 「期待しているわけじゃっ!」 青葉は反射的に顔を上げるが、言葉が見つからず、また俯いてしまう。 優也は荒い息を吐きながらも口元が緩む。 「ただ、…困ったことに…青葉さんがいるから…俺、興奮していて。」 優也は青葉の右手を取ると、優也自身の股間に押し付ける。優也の陰茎はすでに硬く、外に出たいと布を押し上げていた。青葉は反射的に手は引こうとするが、優也は押さえつけ逃さない。指を絡ませ、何度か強引に握りしめさせて感触を覚えさせると、もう逃げようとはしなくなった。青葉は俯いたまま、小刻みに震えている。 優也はさらに口元が緩む。 「俺の性欲…処理…してくれませんか?」 優也は青葉と指を絡ませたまま、形や大きさを嫌でも分からせるようにゆっくりと手を上下させた。青葉は抵抗しない。むしろ、俯いたまま、呼吸が荒くさせ、唾を飲みこんでは喉仏を上下させている。 優也は青葉の左手を取る。 「…ほら。青葉さんがやってくれないなら、女の子呼ばなきゃいけなくなる。」 青葉の左手を優也の陰茎に導く。一瞬の躊躇いの後、青葉自らの意思で、右手の動きの隙間を縫うように、辿々しく布ごしに優也の陰茎をなぞり始めた。優也は目を細める。 優也はゆっくりと青葉の右手を自由にした。すると、まるで"待て"を許されたかのように、青葉は辿々しくも躊躇もせず優也の下着を引き下ろし、股間に顔を埋め舌を這わせた。 優也の背筋はゾクゾクと震え、興奮のあまり笑ってしまう。 「俺、病人だから。今日は丁寧に…お願いしますね」 優也は青葉の髪を優しく撫でると、僅かに青葉の頭が上下に動いた。 陰茎の裏筋をやわやわと指で刺激しつつ、陰嚢を口に含み舌の上で転がす。根元から先端に向かって唇と舌で交互に刺激を与え、舐め上げる。先端を口に含み、舌先で刺激を与えると、また根元からゆっくり舐め上げる。青葉の唾液にまみれて優也の陰茎はそそり立ち、いやらしく光っていた。 優也に教え込まれたことを思い出し、青葉はフェラチオをしていたが、同時に体を重ねてきた様々な過去も思い出し、青葉の体は否応なく熱くなり興奮していた。顔を紅潮させ、物欲しげに腰が自然と揺らめく。 そんな青葉の痴態を見て、優也は満足げな笑みを浮かべると、青葉の背中を優しく撫でる。 「…悪い虫がつかないように…体につけていた"印"を…やめて欲しいと言われた時、…悩んだけど。 …問題なかったみたいですね。」 優也は突然、青葉の背中にきつく爪を立てる。青葉の体が一瞬、震える。 「…これからも俺だけのものってこと…忘れないでくださいね。…そろそろ…咥えてください」 優也に言われるがまま、青葉は陰茎を一気に根本まで咥えるとゆっくりピストンし始めた。青葉の口端から荒い息が漏れ出す。しかし、もっとスピードを上げないと優也が満足しないことは理解していた。少しずつピストンのスピードを早くする。 元々、風邪が原因で呼吸は荒かったが、優也の呼吸はさらに熱を帯び、吐息は荒くなっていった。 「…もう…このまま出しますね」 唐突に優也は青葉の後頭部を掴んで押さえると、腰を小刻みに前後させ、そして達した。 青葉の口内では、喉奥を精液が直撃する。息苦しさで青葉の目に涙が浮かぶ。しばらく我慢していたが、息苦しさのあまり歯を立てそうになり、堪らず顔を上げてしまった。涙を流し、咽せながらも吐き戻さないよう必死に飲み込む。 そんな青葉に対し優也は淡々と言い放つ。 「もう少し、でしたね。…ほら、まだ残っている」 優也は青葉の顎をもつと、強引に優也自身の股間に顔を向けさせる。青葉の視界に精液がダラダラと溢れる陰茎が入った。青葉は覚悟を決めるように唾を飲み込むと、再び股間に顔を埋め、精液を舐め上げる。そして、亀頭に唇をつけると、尿道に残った精液を吸い上げた。 優也は顔を綻ばせ、荒い息がまだ収まらない青葉の髪や頬を優しく撫でた。 「…風邪うつっちゃうかも…しれませんけど…キスします?」 優也は不敵な笑顔を見せ、口を半開きにして舌を出す。青葉が一瞬、身構えた。しかし、その誘惑に抗えるわけがない。優也の肩に手を置くと、物欲しげに口をわずかに開き、自ら近く。 しかし、あと少しで唇が重なるという時、優也は人差し指を青葉の唇に押し当て、動きを止めた。突然のことに意味が分からず、青葉は不満げな顔で優也を見てしまう。 優也は口を開く。 「今日、セックスはできないけど、…気持ち良いこと、…少しでも欲しいですよね。 …青葉さん、…服、脱いじゃいましょうか」 優也は自ら青葉と唇を重ねた。途端、青葉の体は喜びに震え、貪欲に優也の唇を甘噛みし、舌を舐め、優也が望むように舌を絡ませる。頭の芯は快感で蕩け、身体中は甘く痺れるかのように青葉は心地良かった。 青葉は優也との深い口付けで悦楽を貪りながらも、シャツのボタンを一つずつ外していく。しかし、手元が見えず、そして慌てているためか、なかなかうまくいかない。快感の中にも焦燥感が青葉を襲い始めるが、唇を離す気にはなれなかった。1秒でも長く優也と繋がっていたかった。 そんな青葉を追い詰めて楽しむかのように、優也は青葉と舌を絡ませつつも、シャツをたくし上げ、青葉の肌の上を縦横無尽に両手が滑っていた。肌を優しく撫で上げ、時には乳首を刺激する。早く服を脱ぐように、と急かすかのように。青葉の体は細かく震え続けている。 青葉がどうにかボタンを全て外し、シャツの襟元を開き、大きくはだけさせた時。優也は待っていたと言わんばかりに手を出した。青葉のシャツを力任せに肩から下へと一気に下げて脱がせると床に投げ捨てる。 「…次、…下も脱ぎましょうか。」 僅かに唇を離して、優也はそう囁くと、青葉の後頭部に片手を回し、さらに深く舌を差し入れ始めた。まるで喉奥まで舐められているかのようで、青葉の快感はさらに増し、下半身の疼きはより強くなる。もう片方の優也の手は、変わらず青葉の肌を滑り、時に指の腹で乳首を転がし、刺激を与え続けていた。 青葉は快楽に全身を侵されながらも、ガチャガチャと乱暴にベルトを外し、床に投げる。チノパンと下着は共に下ろし、足を前後させながら脱ぐと、床に蹴り落とした。 「ゆう…や…」 深い口付けの息を継ぐ合間、青葉は言いつけを守ったことを伝えようと、優也の名を呼ぶ。青葉の両手は優也の胸に縋り付いていた。 優也は呼応し、青葉の腰を抱き寄せた。臀部をわざと音が立つように叩き、乱暴に揉みしだくとその度にビクビクと腰が震える。いつも通り敏感な体に優也は満足げに含み笑いをする。 優也は青葉の顎を持つとゆっくり引き離した。青葉の口は名残惜しそうにだらしなく開き、呼吸は荒く、顔は紅潮している。優也もまた荒い呼吸が止まらない。ゆっくり青葉の頬を撫でる。 「指、…舐めてください」 優也が右手の人差し指を青葉の口内に差し込むと、青葉は従順に舌を絡ませた。間をおくことなく、優也は中指も差し入れる。青葉は、口端から唾液も零しながらも、指の根元まで咥えて丁寧に舐める。 ふと青葉が視線を上げると、優也と一瞬視線が絡む。2人きりの時にしか見せない、冷たくて、全てを見透かしているかのような優也の瞳。青葉の体は震え、そしてなぜか興奮してしまう。優也の胸に縋り付く指の手に力が入る。 指を舐める青葉を優也は眺めながらも、左手は青葉の臀部を時に優しく撫で、時にきつめに叩くことを繰り返していた。やがて臀部の割れ目に沿うように指を上下させる。そのまま少しずつ指を深く押し入れ、青葉の肛門をゆっくりなぞり始める。青葉の腰の小刻みに震えて止まらない。 優也は面白がるように、時々軽く指で叩いては刺激を与えると、もっと欲しがるように青葉は小さく喉を鳴らす。 青葉はこれから行われることを想像し興奮せずにはいられなかった。ただ、何度、体を重ねても、優也に痴態を見られる羞恥心になかなか慣れることも出来ず、捨てきれもしなかった。優也と視線を合わせたくないため、青葉は瞼をきつく閉じる。 優也はそんな青葉を弄ぶように、青葉の口内で指をピストンさせて反応を楽しむ。青葉は、喉奥を指で刺激され涙ぐむが、必死に舌を絡ませ舐め続ける。 「もう、いいですよ…」 やがて青葉の口内から指を引き抜くと、優也は中指だけをゆっくりと肛門に押し入れた。青葉の体が微かに震える。 そのまま、ゆっくりと何度かピストンさせる。 「だいぶ緩いですね…自分でほぐしました?…あぁ、そうじゃなくて、オナニー?」 青葉は一瞬の間を置いて、首を小さく横に振る。優也は軽く笑いながら、すぐに人差し指も差し込む。ゆっくりピストンさせ、時に内部で指を折り不規則に前立腺を刺激し、快感を与える。 青葉の臀部や足は震え続け、息も荒くなる。気持ち良さで腰を落としてしまいそうだった。たまらず青葉は優也の首に抱きつく。優也が望むまま、全てを受け入れられるよう体勢を維持することで、少しでもより多くの快感を得ようとしていた。 すでに青葉の陰茎はそそり立ち、微かに揺らめいていた。 優也は青葉の臀部を引き上げるように広げると、指を追加した。青葉の肛門は抵抗なく飲み込む。そのまま優也は再び指をピストンさせ始めた。 「今、…何本入っているか…分かります?」 青葉は小さく首を縦に振る。優也は意地悪く青葉の耳元で囁く。 「声に…出してください」 「…3本」 声に出すことで自分の淫乱さを自覚せざるを得ない。無意識に青葉は両手を握りしめた。 優也は指のピストンを早める。 「そう。…すごく緩い。…まだ入りそうですよ」 「…んっ…もぅっ…無理…」 青葉は首を何度も横に振るが、優也は咳き込みながら笑う。 「そうですか?」 優也は指3本を深くピストンし始めた。指を大きく回転させたり、スピードに緩急をつけながらピストンをし、指の根元まで押し入れる。ただ、前立腺を意図的に刺激することがなくなった。快感を感じながらも決定打がないため、青葉はもどかしい。 「ゆう…や!…もう…イキたい!」 羞恥心を押し殺し懇願するが、優也は取り合わない。 「…まだ…楽しみましょうよ」 「…そ…んな…」 青葉は捌け口が見つからないまま快感に悶え続けるしかなかった。優也は追い討ちをかける。 「青葉さんの乳首、舐めたいなぁ」 青葉は驚いて優也を見ると、意地悪く笑い、舌を差し出していた。青葉は優也の意図をすぐに把握し、恥ずかしさのあまり反射的に目をそらす。しかし拒否は出来なかった。 青葉は下半身の快感に腰を震わせながらも、優也の肩に手を置くと膝立ちし、優也の舌に合わせるように自分の胸を差し出す。優也の舌まであと僅か数センチ。これからされることを想像し、緊張し興奮していた。そしてそんな自分が恥ずかしく、青葉は目を伏せた。自然と呼吸が早くなる。 優也はそんな青葉に笑ってしまう。 「青葉さんの乳首、…ほんと、…感じやすいですよね」 優也は青葉の肛門を指で犯しつつも、乳輪を舌先でゆっくりなぞり、唇で乳首を甘噛みする。その度に青葉の体は小さく震える。青葉の反応を楽しみつつ、優也はふいに乳首に歯を立てた。青葉の体は驚き、反射的に体を引いてしまう。青葉は慌てて再び胸を差し出すが、強い刺激があるたびに青葉は反射的に体を引いてしまっていた。 優也は軽くため息をつく。 「仕方ないなあ」 優也は空いている手を青葉の背中に回す。そのまま、青葉の乳首に軽く歯を立て、そして、きつく吸い上げた。体を引くことが出来ないため、強い刺激が青葉を襲い、上擦った声が上がる。 「んぅ…ゆう…やぁ…もぅっ…ゆっ…くり…」 青葉は小刻みに震え続ける。上半身と下半身、それぞれの快感に気持ち良さを感じながらも、自分の体勢が崩れないように青葉は必死だった。優也の肩を掴む手に力が入る。 優也は執拗に乳首を吸い上げ、細かく舌先で刺激を与え、舐め上げる。やがて、乳首は唾液にまみれ、勃起した。その間、青葉はずっと小刻みに体を震えさせながらも、声を押し殺し、刺激に耐えていた。優也は指先で何度か刺激を与えたあとに乳首を摘む。 「青葉さん、…俺が何するか…分かりますよね?」 青葉は荒く息を吐きながら、薄く目を開ける。 「…それ…い…や…」 青葉が言葉を言い終わらないうちに、優也はわざと乱暴に乳首を力強く捻り上げた。途端、青葉は大きく体を震えさせる。 「んあぁっっっ!!!」 青葉はとうとう体勢を崩し、優也の首に抱きついた。青葉は荒い息を吐き、腰がビクビクと震える。 優也の右手は変わらず青葉を執拗に犯しつつも、左手で優しく背筋をなぞる。 「…あぁ、…軽くイッちゃいました?青葉さん、…いやらしいなあ」 優也の笑い声が青葉の耳に届く。羞恥心を感じながらも、優也に縋り続ける以外、もう何も思いつかなかった。理性もどんどん薄れていく。優也は反対側の乳首を弄び始める。 「青葉さん、…反対も…同じことをしてあげますよ。気持ち良いこと…好きでしょ?」 優也の言葉に反応し、青葉は唾を飲み込む。もっと刺激と快楽が欲しくて堪らなかった。ゆっくり体勢を戻すと、優也に反対の胸を差し出す。 しかし、すぐに優也は触れようとしない。優也は笑顔で青葉の手を取ると、既に勃起している青葉の乳首を触らせた。 「こっちは自分で弄ってください…もちろん甘やかしちゃダメですよ」 青葉は一瞬躊躇するが、震える指で自分の乳首を指の腹で転がし、指先で強く摘む。気持ち良さで声が漏れそうになるが俯いて耐える。 優也はそんな青葉の姿にクスクスと笑うと、もう一方の乳首をゆっくりと指先で嬲る。刺激を与えるたびに青葉は小さく喉を鳴らし、反応する。やがて頃合いを見計らい、乳首を口に含む。先ほどと同じように優也が刺激を与えると、青葉の体は再び小刻みに震え続けた。 青葉の指も止まることなく、むしろもっと快感が欲し、無意識に優也の舌先の動きと少しでも似た動きを指先で再現するようになっていた。下半身の刺激も止まらず、青葉の体は快感でどんどん満ちていく。 やがて、優也から優しく、そして乱暴に愛撫された青葉の乳首がそそり立つ。唾液で光る乳首を優也はそっと触れると指で摘む。 「青葉さん、…さっき、…嫌って言っていたけど、…本当は好きでしょ?」 優也は摘む指の力を強弱させながら刺激を与える。青葉は優也が何を考えているか分かった。覚悟を決めるように深呼吸する。 「…好き…だ」 「ですよねぇ」 優也は先ほどとは比べものにならないほど力を込めて捻りあげた。 「っっっ!やあああっっっ!!!」 青葉は体を大きく震わせると再び体勢を崩す。優也の首に抱きつき、口を大きく開いて呼吸を繰り返す。優也はクスクスと笑いながら、押しつぶすように何度も捻りあげた。そのたびに青葉は反射的に上半身を引こうとするが、優也が乳首を強く摘んでいるので逃げられないうえに、乳首を引かれるという新たな刺激が追加されてしまう。 「ゆ…うやっ!だ…めだ…もぅ…やめっ…」 「えー、好きなんでしょ?」 「っ!…好き…だ…が…もぅっ!ダメ…だっ!」 青葉は嫌がる言葉を口にするが、逃げる素振りも反抗する素振りはなかった。優也に抱きつき、大きく開けた口の端からは唾液が漏れ、むしろもっと欲しいと縋っているように見えた。実際、青葉は痛みの先にある快感が気持ち良く、顔を紅潮させていた。優也は咳き込みながらも笑いが止まらない。 「…青葉さん、…ちゃんと言わないと。…ダメっていうのは、…気持ち良すぎるんでしょ?」 「…あっ…んっ…気持ち…良い…」 「だったら、自分の気持ちに…嘘ついちゃダメですよ。 "気持ち良い"は…"ダメ"じゃなくて…"欲しい"んでしょ?」 優也は爪を立てて何度も青葉の乳首を捻りあげる。与え続けられる刺激で、青葉の体はより敏感になり、そして快楽を受け入れることに素直になっていった。青葉は、声を押し殺すことをやめ、甘く上擦った声を上げ始める。 「…っんぅ…もっと…んぁ…欲し…い…」 「そう。…やっと…良い声、…出し始めましたね」 優也は反対の乳首も潰すようにきつく捻りあげ始める。そして青葉の肛門を犯し続けている優也の指の動きはより激しくなっていく。青葉は全身を震わせ快楽に酔いしれていた。 ただ、快楽が蓄積されていく青葉の「吐き出したい」と思いも強くなるばかりだった。無意識に青葉の手は下半身に向かっていた。あと少しで陰茎に触れられそうになった時。 「青葉さん、…手」 優也が見落とすわけがなかった。青葉の手が止まり、自分が何をしようとしていたか自覚する。 「もうっ!んっ…たの…むっ…から!」 「勝手に触っちゃダメですよ。…俺、風邪で辛いのに。…油断も隙もない。 …んー、…ペナルティ、…どうしようかな」 優也は青葉の願いを受け入れるつもりは毛頭なかった。ため息をつき、しばし考えると、青葉の両手を取り、青葉自身の臀部に移動させた。 「青葉さん、…俺が指を入れやすいように…広げてください」 「…っ!」 入れやすさもあったが、青葉の両手を封じることもでき、一石二鳥だった。 「…ほら」 優也は青葉の両手に自分の手を重ねると、力任せに臀部を引き上げるように広げる。青葉自身は直視することは出来ないが、肛門に空気が触れ、嫌でも曝け出していることは分かった。羞恥心が青葉の中に溢れるが、優也の言葉がそう簡単に翻らないことは身を以て知っていた。震える指で力をこめる。 優也は薄く笑うと、再び指をまとめて入れるとピストンし始めた。深く大きく早く抉るように。青葉の肛門は容易く優也の指を根元まで飲み込み、さし抜く時はまるで名残惜しいかのように内壁は優也の指にまとわりつく。 もう一方の優也の手は、先ほどと変わらず、青葉の乳首を弄び、優しく爪で刺激したり、力まかせに捻り上げている。青葉の上擦った声は止まらず、足もガクガクと震え続けていた。 「やぁ…ゆう…っや…もう…あぁ…ゆるし…」 青葉は涙を浮かべ何度も懇願する。優也は軽くため息をつく。 「もう…いいかな」 優也が指を引き抜くと、肛門括約筋は機能を麻痺していた。完全に閉じることはなく、だらしなく口を開けている。青葉の肛門をゆっくり指でなぞって、そのことを確認すると優也は笑う。 「このままだとオムツが必要になっちゃいますね」 優也はそう言い終わらないうちに、再び指を差し入れた。しかも今度は左手の指も追加されていた。肛門は皺がなくなるほど広がりながらも優也の指を飲み込む。 「青葉さん、今、…何本入っているか…分かります?」 「っ…やぁっ…だっ!」 青葉は首を横に振る。優也は意地悪く笑うと、さらに広がるように指を入れたまま左右に開き、指を軽く曲げる。 「それじゃあ、…分かりやすく、…もう1本、…増やしましょうか」 「…っ!い…っやぁ…だ!…4本っ!…入って…いるっ!」 青葉は必死に声を上げる。 優也は指を思いつくまま不規則に動かしながら、含み笑いをする。 「残念。…5本ですよ。…言った通り、まだ入ったでしょ。…あぁでも、…まだまだ広がって入りそう」 「ゆう…やっ!」 青葉は余裕がなかった。優也の言いつけを破り、臀部から両手を離すと、優也の後頭部に両手を回す。そして、口付けをした。"おねだり"だった。 「…これっ…以上…はっ…壊れ…るっ…頼む…か…ら…」 青葉は必死に優也の唇を甘噛みし、舌を舐め、解放を請い続けた。 優也は一瞬驚く。"おねだり"のルールは存在していたが、優也に誘導されない限り、青葉が今まで自ら求めることはなかった。その日初めて青葉自ら行動したことに優也はつい頬が緩む。 「…いいですよ。…俺も風邪でしんどいし。」 優也は内部で指を不規則に動かしつつも、ようやく前立腺を直接、強く刺激する。撫でたり、叩いたり、押したり。途端、青葉は体を反らし、腰はガタガタと震え出す。今まで溜まっていたものが一気に押し寄せてきていた。 「あああっ!!!もうっっっ!!!」 青葉は慌ててベッドサイドテーブルに手を伸ばす。テーブルに置かれていた様々なものに青葉の手は派手にぶつかり、床に落ちる。その中には青葉が皮を剥いたリンゴもあった。しかし余裕がない青葉は気づくこともなく、目的のティッシュペーパーを何枚もまとめて急いで引き抜くと、自分の股間に押し当てる。途端、青葉の体は小刻みに震え、達した。 優也が指を引き抜くと同時に、青葉は荒い息のまま腰を落とし、優也の胸へと倒れこむ。優也は咳き込みながらも笑う。 「…本当はもっと…いじめてあげたかったなぁ。 青葉さんも…まだまだ物足りない…でしょうけど、…次のお楽しみ、ですね。 …代わり、じゃないですけど、…もう一回、キスします?」 青葉はまだ荒い息のまま、ゆっくり上半身を起こす。もっと欲しいと言うように、口を開き、舌を差し出した。 深く長い口付けを楽しみ、青葉の熱情が落ち着いた頃を見計らい、優也は青葉を仰向けに押し倒す。 「…今日、まだ時間ありますよね?」 青葉は伏し目がちに頷く。優也は笑顔を見せると、青葉の胸に寄り添うように横になった。そのまま布団を手繰り寄せ、瞼を閉じる。 今まで寝る時は優也に抱きしめられることばかりだった青葉は、いつもと違うことに戸惑う。見渡すと枕が視界に入り、慌てて手元に引き寄せた。 「優也…寝る前に、頭を上げて欲しい」 「…どうしてです?」 青葉は優也の頭を持ち上げ、枕を押し入れようとする。 「…顔に骨があたって痛いだろう?」 「なんだ、そんなことですか」 優也は枕を取り上げると床に投げ捨てる。 「青葉さんのこと好きだから、…関係ないですよ。 …それに…今日は寒くて…青葉さんの体温が…すごく温かい…」 優也は言い終わらないうちに再び瞼を閉じた。大した間も無く、規則正しい寝息を立て始めた。 反対に青葉は寝ることは出来なかった。まだ昼間ということもあるが、優也の首にそっと触れると、まだ体温は高い。改めてサイドテーブルを見ても、やはり菓子の空袋や栄養ドリンク、缶ビールの空き缶が散乱していることから、まともな食事をとっているとも思えなかった。 …私の身の回りに関しては小言が多いのに。 青葉はため息をつくと、泥のように眠る優也をベッドに残して起きる。ベッドサイドのテーブルに置かれた薬を手に取ると、まだ数日分は残っていた。青葉は安堵の表情を見せる。 青葉は自分の服を拾い集めながら、部屋中に散乱するゴミも簡単に拾い始めた。その中には青葉が皮を剥いたリンゴもある。寂しげに拾うと他のゴミとまとめる。 集めたゴミを見る限り、やはり食生活が偏っていることは青葉にでもすぐに分かった。一度買い物に出かけたかったが、優也の好みがよく分からない。青葉はベッド脇に座り、優也を一度起こすかどうか悩む。 そんな中、サイドテーブルを何気に見ると、まだ残っていたリンゴが目に入った。青葉は思わず手に取る。久しぶりに食べるリンゴは思っている以上に美味しくて青葉の顔が綻ぶ。 そんな時、優也がモゾモゾと体を動かし始めた。青葉は優也にそっと触れる。 「ちょうど良かった。何か栄養のある食べ物を買ってくる。好みとか苦手なものはあるか?」 優也は布団の中から顔を出し青葉を見上げる。質問に答えないまま青葉の手首を掴んだ。 「勝手に帰らないって…言ったじゃないですか」 低く落ち着いているが、強い意志を感じる声。優也は眉間に皺を寄せながら起き上がると、青葉を強引にベッドに引きずりこむ。慌てて青葉は優也の腕を押さえる。 「買い物に行くだけだ。また戻ってくる」 「何も要りません、…どこにも行かないでください」 優也は青葉の手を振り払い、背後から抱きしめる。 「…んー、…でも、喉は乾きました」 青葉はため息をつくとサイドテーブルに置いてあった、飲みかけのペットボトルを手に取り、優也に渡す。優也は一気に飲み干すと床に投げ捨て、青葉の首に顔を埋めた。そのまま優也は動こうとはしない。優也の荒い息遣いだけが室内に静かに流れる。 優也は思い悩むが、このタイミングで切り出した。 「こんな時に悪いが…頼みがあるんだ……こうやって会う回数を減らして欲しい」 優也の体が僅かに震え、抱きしめる力が強くなる。 「嫌です。無理です。ダメです。」 完全拒否、それは想像していたことだった。青葉は意を決して、言葉を続ける。 「ここのところずっと落語の調子がおかしいんだ。 何度高座に上がっても、ボタンを掛け違えているような違和感がとれないし、日増しに膨らむ。 しばらく落語に集中して、次の二人会までにどうにか間に合わせたい。…頼む」 嘘ではない。事実であった。手を抜いているつもりはなかったが、気の緩みからか、精彩を欠いていた。以前、優也を叱り飛ばした手前、不甲斐ない姿を見せることはしたくなった。 青葉を抱きしめる優也の腕の力が強くなる。 「青葉さん、ずるい。」 優也は"落語なんて"と言いたかったが、青葉が落語を大切にし、真摯に取り組んでいることをよく知っていた。だから落語をぞんざいに扱うことは青葉をぞんざいに扱うことと同意義であることは嫌というほど分かっていた。そう簡単には拒否できない。 「…次の二人会まで、だったら。」 「…ありがとう」 青葉は安堵の表情を浮かべる。が、突然、優也は青葉を仰向けにベッドに押し付けた。 「…もしかして、…今日はその話をしに来たんですか?俺の心配しているんじゃなくて」 眉間に深い皺を寄せ、明らかに不安そうな表情を優也は浮かべていた。 青葉は慌てる。 「違う!」 青葉は言葉を続けようとしたが、優也は再び青葉の胸に抱きつき、布団に包まる。 「もういいです」 優也の顔が見えるよう、布団を少し捲ると、まるで拗ねた子供のように、何も聞きたくないと言わんばかりに丸くなっていた。青葉は心苦しく、何か声をかけようと思うが、全てが空々しくなりそうで言葉が出ない。 青葉は戸惑いながらも、辿々しく優也の髪を撫でると、優也の表情が少し和らぐ。 「…ん、…それ、いい。…俺が寝ても…ずっと…続けて…」 やがて優也は眠りに落ちる。優也をベッドに残して買い物に出かけることも出来たが、優也の傷ついた顔が忘れられなかった。 結局、優也が寝付いたあとも、青葉は起き上がることも出来ず、優也の髪に触れ続けていた。 ー第9話に続くー

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