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お気に入りのもの

 我ながら慣れない王子気取りをしてしまった。キュケが見たら泣いて喜びそうだけど。 「持ってきたよ〜!」 「………なんだそれ。石か?鈍器か?」 「本だよ?はっ、もしかして……。ふふーん、なら、僕が良さを教えてあげる!この本はね、冒険者のお話が描かれていてね」  「お気に入りのもの」として持ってきたのは「本」というそうだ。本は一冊だけでなく、たくさん種類があるみたいで翌日もそのまた翌日も違う話の本だった。しかも日に日に量が増えていく。  ここに辿り着いて四日を過ぎた頃、体を鈍らせないように近辺で泳ぎ始めた。毎日変えてくれる処置のおかげか、痛みはもうほとんどない。満足して海から上がると、頭上から一雫落ちてくる。 (この花、アストランティアという花だったのか)  昨日、地上にある花がこれでもかと載っている「図鑑」とやらを見せて貰った際、俺の髪飾りの花が載っていた。長年、この白く膨らんだ可愛らしい花のことを気になっていた。 「花言葉はね……。あ、【愛の乾き】【星に願いを】らしいよ」 「どういう意味なんだ?」 「うーん。それはよく分からないけど、きっと君を想って送られた花なんだよ!」  ヒトは花単体だけでなく、その花に込められた花言葉をも使って大切な人に送るようで、意味する言葉も国によって多少異なるらしい。  この花は母からプレゼントされたもので、小さい頃から今日まで身に付けない日はなかった。 (もし、そうならいいな)  まさかこんなところでヒト世界の本を読むことになるとは。偶然とは分からないものだ。 『彼女はまるで花のような笑みを浮かべ』  彼が置いていった本の中にそんな文が書いてある。国から出たことがない姫が盗賊の男と逃亡し、危ない目に合わせてしまったことを悔やんだ男に姫は花冠を作って笑ったみせた。 「ヒト、か……」  出会った初日みたいに大泣きされることは無い。読書が中心で、「風が気持ちいい」くらいの会話をたまにするそくらいだ。それでも、彼は感情が豊かなようで、本を読んでは口を緩ませたり、涙ぐんだり、時には頬を膨らませたり、俺にはいつも笑顔を向けていた。  新しいことを知っていく喜びは、使いこそが役割の俺にとって、初めての経験だ。それと同等にヒトへの見方も昔より和らいでいく。 (もっと……知りたい……)

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