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嫉妬。
……はあ。
例によって屋上で、間宮は深いため息をついた。
「今度は何のため息だ?」
同僚の岳が訊ねた。
眉間には深い皺が刻まれている。
このことから、間宮の悩みが何によるものかは既に知っているらしい。
「ああ、いや。僕だけを見て欲しいなって……」
はあ……。
もう一度、間宮は大きなため息をついた。
「例の泣いていたっていう子か?」
「ああ」
「相手はお前より一枚も二枚も上手なようだな」
「そうだね、あんなに美しいんだからしょうがない」
例の茶屋裏にいた子猫を大瑠璃に見せてやると、とても嬉しそうに微笑んでくれた。
あの微笑が忘れられない。
唇をへの字に曲げ、目尻を吊り上げている彼は常に無愛想で偏屈な印象だ。
けれども彼がひとたび微笑めばとても美しい。
常につり上がっている目を細め、静かに笑う彼はとてもしおらしい。
弧を描く赤い唇はすぐに塞ぎたくなってしまいそうになる。
仕事をしているふとした瞬間にも彼の顔が頭を過ぎる。
自分がこうしている間にも、彼はお客を取っているのかと思うと居ても立ってもいられなくなる。
早く大瑠璃に会いたい。
仕事も、何もかもを放り出して側にいたい。
そう思ってしまう自分はすっかり嵌っている。
「……お前も苦労するんだな」
「まあね、だけど容姿なら僕も負けてないし――落としてみせるさ」
「……自意識過剰はお前らしいな」
何とでも言えばいい。
今はまだ、もう少し泳がせておこう。
僕をこんなに嵌らせたんだ。
逃がしはしないさ。
間宮は強く決意した。
《嫉妬。・完》
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