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お気に入り。(前編)
「大瑠璃ちゃん、この反物の色彩、どう思う?」
バルコニーに続く大きな窓から純白の陽光が照っている。柔らかいそよ風によってレースのカーテンがゆるかやになびく穏やかな昼下がり。大瑠璃、間宮、そして間宮の姉の灯子 はリビングではダイニングテーブルに広げてある反物に向きあっていた。
灯子は大店の反物屋の女主人となり、後を継ぐことになっていた間宮の代わりに奮闘している。
けれども最近はどうもこれまでのデザインに納得がいかない様子だった。そんな時に声を掛けたのが間宮だった。
大瑠璃は花街の人気の娼妓として名を馳せている。その彼は花街で美しいものをたくさん目にしてきただろう、彼に相談すれば何か解決の糸口が見つかるのではないかとそう助言したのが事の発端だ。灯子は大瑠璃のセンスの良さを見抜き、こうして相談に来るのが日課になっていた。
「…………」
「綺麗ですね。すごく……」
「でしょう? でもね」
そこまで言うと、灯子は悩ましげに大きなため息をついた。
「あの――」
どうも納得していない様子の暁子に、大瑠璃はどう接していいのかわからない様子だ。綺麗な眉間に皺を寄せている。
「…………」
「でもねぇ、もう少しいいデザインはないものかしら……」
「だったら、もう少し薄い色にしていったらどうかな?」
「グラデーション、ね?」
「うん」
大瑠璃は細い指で同じ色調をさした。
「……あら、あらら、いいわね!」
灯子は、今までの思い悩んでいた暗い表情は消え失せ、まるで花が咲いたような明るい顔を見せた。
「素敵よ、大瑠璃ちゃん!!」
大瑠璃の両手を握り締め、興奮状態だ。
「…………」
これまで押し黙り、二人のやり取りを見ていた間宮はとうとう痺れを切らしてしまった。
それというのも、大瑠璃と二人で楽しく会話していた時に、突然灯子がやって来てダイニングテーブルに反物を広げ、ここがまるで自分の家のようにして堂々と居座っているからだ。
しかも今、彼女は大瑠璃の手を握っている!!
「ちょっとちょっと、姉さん。僕を無視しないでくれるかな」
「え? うわわ!」
声を上げたのは大瑠璃だった。
間宮は灯子から大瑠璃の両手を奪い返すと、大瑠璃を引っ張り込み、自分の胸の中へと仕舞い込んだからだ。
「あの、輝晃さまっ!?」
大瑠璃は間宮の突然の行動に驚いている。
反物を見つめていた彼の綺麗な目が間宮を見る。
――そう。それでいい。
大瑠璃は自分だけを見つめるべきだ!
間宮は自らの腕で大瑠璃を包み込む。
ジャスミンの良い香りがする。
彼の波打つ髪から甘い蜜のような香りが間宮の鼻孔をくすぐる。
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