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お気に入り。(後編)
「煩いわね、アンタは少し黙ってて。わたしは今大瑠璃ちゃんに意見を聞いてもらってるのよ!」
対する灯子の機嫌はすっかり損ねている。間宮の邪魔に苛立ちを隠せない様子だ。眉間に青筋が何本も立っている。
彼女は大瑠璃を気にいってくれているようで嬉しいが、これではあんまりだ。
いったい誰のために大瑠璃を身請けしたのかわからなくなる。
にゃあ。
白猫さえも大瑠璃の膝の上にちょこんと座っている。
僕はこうやって抱きしめることさえも難しい状態なのに、だ。
「姉さんはもう終わり。今度は僕の番だ」
「輝晃さまっ――?」
こうなったら強行手段だ。
間宮は大瑠璃を横抱きにするとソファーから立ち上がった。
「輝晃! ま、いいわ。今は少し引き下がってあげる。でも、わたし今日は帰らないから!」
灯子はあからさまに大きなため息をつくと立ち上がった。
にゃあ。
子猫も同意したのか、大瑠璃の膝から下りる。
やれやれ。
これでようやく二人だけの時間が訪れる。
「あの、輝晃様いったいどこへ?」
大瑠璃を横抱きにしたまま、間宮は これ以上の邪魔者を増やさないようにと灯子と白猫に目も暮れず、さっさと歩き出した。
「寝室だよ。愛おしいきみ」
「いとっ!? だけどまだ昼間っ!」
「だけど僕は君を抱きたい」
「抱っ!? でも灯子さんがっ!!」
大瑠璃の声がひっくり返っている。
顔は耳まで真っ赤だ。
どんなに抱いても、欲しても、けっして馴れることのない新鮮な彼の姿。
本当に娼妓だったのだろうかと思えるほど、とても可愛らしいから困る。
けれども彼の腕はしっかり間宮の首に巻き付いている。
その姿が実に可愛らしい。
「大瑠璃ちゃん、また後でね」
にゃあ。
灯子は白猫を抱きかかえ、大瑠璃に次に会う約束をして寝室に向かう間宮と大瑠璃を見送る。
「えっ? ええっ!?」
……本当に。大瑠璃は皆から好かれすぎだ――。
「……君はこんなに美しいから……」
「えっ? 輝晃様? え?」
戸惑う大瑠璃を余所に、間宮は絹のような滑らかな肌触りがする彼の肩口に顔を埋め、大きなため息をついた。
《お気に入り。/完》
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