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輝晃の好きな服。

 休日の今日は、久々にいつも行く洋服屋を貸し切りにして大瑠璃と出向いていた。  それというのも、大瑠璃に洋服を買ってやるためだ。  和服ももちろん美しいのだが、洋服姿も見てみたいと思ったからだ。  大瑠璃は店員から勧められた洋服を手にしては、うんうん唸りながら検討している。  輝晃としては好みの洋服があればなんでも買ってやるつもりではいるんだが、大瑠璃は一着に絞ろうとしているらしい。  もちろんこれは輝晃の財布から出すし、気にしなくともいいのにそうやって気遣う彼は本当に心優しい。  スーツ姿も美しいと思う。  しかし……。 「これも美しいと思うんだが……」  輝晃がうんうん呻っている大瑠璃の前にズイっと出したのはゴシック風の膝丈ワンピースだ。  所々にフリルが付いている。  堂々と差し出した洋服を見た大瑠璃の眉間にはますます深い皺が刻まれる。 「……本気か?」  差し出されたワンピースと輝晃の顔を交互に見る。  彼のこれは輝晃の気が狂ったかのような言いようだ。 「ぼくはいつだって本気だよ?」 「俺が着るようなものではないだろう」  大瑠璃の手がフリルの裾の部分に触れた。  流れるような手つきで触れた袖がふうわりと弧を描き、宙を舞う。 「そうかな?」  輝晃はわざとらしく首を傾げるが、そんなことは露ほどにも思ってはいない。  だって大瑠璃は何を着ても美しい。  これは惚れた弱みでも何でもない。  実際、この店に来るまでの間、彼は女性も男性も関係なく魅了し続けていた。  行き交う人々の視線を集めていたのを知らないのは当の本人だけだ。  日焼け知らずのきめ細やかな柔肌に艶のある赤い唇。  長い睫毛が斜にかかり、繊細な表情をつくり出す。   華奢でしなやかな肢体は当然、女性の洋服でも着こなしてしまうだろう。  とはいえ……。 「まあ、でもそうだね」  洋服もいいけれど、中でも一番輝晃が気に入っている大瑠璃の姿は、一糸も纏わない姿だ。  褥の上で、輝晃の腕の中で美しく乱れ舞う。頬を紅色に染め、快楽の涙を潤ませ、愛する男の名を呼んで――。 「君は何も着ていない姿がいちば――むぐっ」  最後まで口にしよとした直後、突然やって来た手が輝晃の口を塞いだ。 「うわあああああっ! 馬鹿! 外で何言い出すんだよっ!」  大瑠璃は慌てふためいている。 「ここは僕がいつも世話になっているところだし、誰にも口外はしないよ」  ここは輝晃がいつも利用している店だ。  お得意様を無下にするような店じゃない。  だから輝晃はにっこり笑いかけ、大瑠璃に安心してもらおうとするのだが――。 「そういう問題じゃない!」  そう言って怒鳴る彼の顔は耳まで真っ赤だ。  唇をツンと尖らせてはいるが怒っていないのは丸わかりだ。  どうやら照れているらしい。 「そうやって怒る君も魅力的だよね」 「~~~~っつ」 「照れる君も可愛い」 「もう知らないっ!」  そっぽを向いてしまった。  可愛いなあ、本当に……。  ますます深みに填りそうだ。  輝晃はそっぽを向く大瑠璃の可愛らしい姿に苦笑するばかりだった。  《輝晃の好きな服。/完》

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