23 / 68

第23話 無邪気

 僕は無邪気を装った。  何も見ていない、そして何も気づいていないふりをした。  ナイフも弓矢もアーマーも、結局レンに選んでもらった。  付け耳をつけ、アーマーを装備し、ナイフを腰に差し、弓を背中に背負い、僕は大仰に喜んだ。  ドルードの店を出て、人気のない路地を歩きながら、僕は建物の硝子に自分の尖り耳姿をうつして、ニコニコ笑った。 「すごい、本当にすごいよ、どう見ても僕、現地人!」  そしてナイフをぶんと振ってみた。 「かっこいい!それにとても軽い。軽いのにいかにも本物ーって感じする。さすが異世界、こんなのあっちの世界じゃ見たことないよ、なんかこれ持っただけで強くなれる気がする!アーマーも超かっこいい、まじでゲームじゃん!」  レンはそんな僕を嬉しそうに眺めて笑った。 「大げさだな。自分の指切るなよ」 「大丈夫だよー」  僕は内心、胸が潰れそうだった。  僕のためにあんなことしてくれたのに、嫌味ひとつ言わない。  ただ買ってもらっただけの、何もしてない僕なんかに、そんな風に優しく笑ってくれて。  ああ駄目だ、我慢してたのに、泣きたくなってしまう。  駄目だ、無邪気を装うんだ僕は。  急にうつむいて黙った僕に、レンが首を傾げる。 「どうした?」 「な、なんでもない!」  僕は涙を押し殺して言う。 「ありがとう、レン」 「なんだよ、さっきも言ったじゃんかそれ」 「何度でも言いたいんだ。レン、本当にありがとう」  レンは照れたような顔をして、僕の頭を撫でた。 「そんな喜んでもらえて、俺もうれしいよ」  泣かない、泣かない。僕は必死に涙をこらえた。  そしてレンを見上げて、満面の笑みを浮かべた。 「……」  気のせいだろうか?今、レンの頬が赤らんだ気がした。  そ、そんなわけないか。きっと僕の勘違いだろう。 「じゃ、じゃあ、用も済んだし帰るか。あんま長居も危険だしな」  レンは何故だか気恥ずかしそうに視線をそらしながら言った。  僕はうなずく。 「うん、帰ろう、僕達の家に!」  レンは目を見開いた。  僕は、はっと気づいて頭をかいた。 「ごめん、居候の分際で!えっと、レンの家!」  レンは慌てたように首を振った。そして 顔をほころばす。 「いや、俺達の家、でいい」  それはレンが今まで見せた中で、一番の笑顔だった。

ともだちにシェアしよう!