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第60話 決戦(1)

※三人称になります ---------------------  復活したレンは、塔の螺旋階段を昇っていた。  ラガドの通りのど真ん中に出現したレンの体は、鎧と剣を身にまとっていた。  レンは初めて見るその鎧と剣を、どこか懐かしく感じた。  塔で働く者たちは、武装した謎の転生者の突然の訪問に、当然驚いた。 「ヨアヒムに会わせろ。あいつは俺から大事な者を奪っていった」 「は?転生者が何言ってんだ?とりあえず剣をこちらによこせ」  捕らえようと襲ってくる連中を、レンはなんなく切り捨てた。  現地人たちはそのあまりの強さにおののいた。  レンは恐怖に腰を抜かす者たちを尻目に、螺旋階段を昇り始めた。  やがてようやく、最上階らしき場所に到達した。  扉を開けて中に入ると、紫の髪をした、泣きぼくろのある少年が、廊下にうずくまっていた。  レンはその少年に問う。 「ヨアヒムはどこだ」  少年は泣きはらしたような赤い目で、ぼそぼそと答えた。 「また……あいつを抱いてる……。あんな人形の何がいいんだ、何も見えてない、何も考えてない、ただのモノじゃないか……」  レンは眉間にしわをよせると、少年の前を通り過ぎた。  そして一際大きな、立派な両開きの扉の前で立ち止まる。  その扉をギイと押し開けた。  目に飛び込んできた光景は、レンの心を一瞬で粉々に砕いた。  そこには、赤黒い触手に全身を犯されている、両腕両脚のないヨルの姿があった。  触手はヨルの全身に絡みついていた。  その口と耳に入り込み、後孔を貫き、ペニスに巻きつき。  細い毛のような触手は、尿道と乳首に突き刺さっていた。  触手は全て、邪神ヨアヒムの股間から生えていた。    ヨルの瞳は、もう何も見ていなかった。完全に沈黙した魂。からっぽの人形だった。  股間から触手を生やし、人形のようなヨルを犯すヨアヒムは、レンを見て邪悪な笑みを浮かべた。  その瞳は虚ろで、狂気の色を宿していた。 「遅かったな、勇者よ。この壊れた肉人形が欲しいのか?」  レンの頭は真っ白になる。  全身が総毛立つ。  怒りも悲しみも憎しみも一気に飛び越し、ただ殺意が、純粋な殺意だけが脳を支配した。  コロス。コロス。コロス。コロス。 「っ、ああああああああああああああっ!!」  右手で剣を振りぬき、飛び掛る。  ヨルの体を弄ぶ触手の根元を断ち切った。  ヨルの体が宙に投げ出される。  それを捕まえようと左手を伸ばしたら、太い触手が鞭のようにレンの腹を殴り、レンは後ろに吹っ飛んだ。  背中を壁に打ち付けた。きしむ背中の痛みにこらえて見上げると、ヨアヒムが左腕にヨルの体を大事そうに抱えて、レンを見下ろしている。 「そう簡単に渡すと思うか?」  レンは血を吐くような思いで叫んだ。 「なぜっ……!なぜヨルを壊した!お前の花嫁なんだろ!!」  ヨアヒムは瞳に憎悪をたぎらせ、唇を震わせる。 「なぜ、だと……?貴様が言うのか……!全て貴様が奪った、壊したのは貴様だああああああああ!」  ヨアヒムはレンに右手を突き出した。その手から業火が吹く。レンは空間に見えない防壁を作り出しそれを防いだ。  初めて戦うはずなのに、いとも簡単にできた。まるで全て、体で覚えているように。  業火を防がれたことに苛立った様子のヨアヒムが、かっと口を開いた。  そこから黒い球体が発射される。  あの夜に一瞬でレンを骨にした魔術。  レンの顔面に球体がぶつかる、その刹那。  スレスレのところで、レンはその球体をつかんだ。素手で。 「二度も同じ手を喰らうかっ!」  手の中で黒い球体を握りつぶす。球体は黒い灰になって消失した。  驚愕したヨアヒムの懐に、レンは飛び込んだ。  剣をその腹に突き刺す。  ヨアヒムの目が飛び出さんばかりに見開かれる。  深々と貫通した剣を、一気に引き抜いた。  ヨアヒムの腹から紫色の液体が噴出した。 「くっはっ!」  ヨアヒムは膝を曲げ床に崩折れた。  レンは剣を鞘に収めると、ヨアヒムの頭をつかんだ。 「ヨルを離せ」 「いや……だ……」  崩折れても左腕にヨルの体をかたく抱いたまま、ヨアヒムは掠れた声で拒否した。  ヨアヒムの額の目に、レンは親指をあてがう。  ヨアヒムの顔が恐怖にこわばる。  その額の目が弱点であることを、レンはなぜか知っていた。  千年前、潰せなかったこの邪眼。  こいつを潰せば、ヨアヒムはその肉体を回復できなくなる。邪神としての様々な能力も失い、ただの人となる。    邪眼を潰せば、ヨアヒムは既にレンに受けた剣の傷により死ぬ。  レンの口から、誰の言葉とも分からない言葉が発せられた。 「……衰えたな、ヨアヒム。老いさらばえたその古い肉体で、俺に勝てると思ったか?」  ヨアヒムが怯えたように震える。 「や……め……」 「やめて!!」  甲高い叫びと共に、一人の少年が、ヨアヒムの頭を掴むレンの腕にしがみついた。  紫の髪をした、泣きぼくろの少年だった。

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