その声に、ハッとなった臣は、火照った頬を晒して、紅葉を仰いだ。 　紅葉の指示どおりにするということは、臣が、自分で後ろを弄るということだ。そのことに気づいたのだろう、上気した顔を上げ、本能と理性の間で、葛藤している表情をしていた。 「……っ、それ──……」 「ん？」 　わざとそれ以上の懇願をしない紅葉に、臣は散々迷った末、絞り出すように囁いた。 「っ……、紅葉、が……したい、なら……」 　唇を噛み締め、額をガラスに付けたまま、俯いている。飢えたままの身体は、紅葉を求めていることが明白で、息をするたびに水蒸気で曇るガラスの向こう側へ、紅葉が顔を近づけると、臣の肩が、かすかに震えているのがわかった。 「ん。したい。……お願い、臣ちゃん」 　強請る口調で紅葉が言うと、臣はきゅっと唇を噛んで頷いた。 「わ……かっ、た……」 　こんな状態で、アルファにお願いされて、逆らえるオメガは、いない。 　知っていながら、紅葉の言葉を免罪符にする臣を、ちょっとずるいと思う時もある。けれど、臣が望むなら、背中を押すのが、いつだって紅葉の役割りだと思っていた。臣が、それで楽になるなら、紅葉にとって、それ以上の喜びはない。好きな人が身体を開いていきながら、心を許してくれる瞬間が、何より貴重だと紅葉は思っていた。 「後ろ、触ってあげるね？　ゆっくりするんだよ、臣ちゃん」 「ん……く」 　おずおずと背後に利き腕を持ってきた臣の耳元のインカムへ、囁くように情欲に塗れた声を吹き込む。臣は、潤んだ頬を晒し、そっと後蕾を練りはじめた。 「ふ……っ、ぅ……、は……っぁ、ぁぁ……っ」 「気持ち、いい……？　臣ちゃん。俺は、すごく気持ちいいよ」 　臣の身体のどんな変化も、一番間近で見てきて知っている。しとどに濡れているであろう、後孔に指を入れた時にわななく内壁も、愛液を零しながら絞るように指を飲み込んでゆく感覚も、ガラス越しで触れられなくても、ありありと脳裏に思い描くことができた。卑猥な水音をさせて中へと押し入る臣の指が、紅葉の開発した場所を、一生懸命捏ねるのがわかる。 　すると、臣の表情が、泣きそうに潤み出した。 「んっんっ……ぁ、は、ぁぁ……、っもち、い……っ」 　わずかに開かれた臣の唇から、うっとりと濡れた声が漏れる。 「たくさん愛してあげる。臣ちゃんが、満足するまで、中、弄ってあげるからね……？」 　腰を振り、ペニスの先端部分をガラスに押し付ける臣は、淫らで美しい獣だった。紅葉はそっとガラス越しの臣の唇にキスを落とし、遮られた場所にある臣の乳首を、ゆっくりと指で撫で上げた。 　刹那、紅葉の背中に甘い衝撃が弾け、剛直がガラスを叩くように育っていく。紅葉もまた、臣の揺れる速度に合わせ、自身のペニスをガラスに押し付けて腰を揺らしていた。