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第9話

 すごいな、と和哉は歌いながらちらりと翼を横目で見た。  しかし、その瞬間、息を呑んだ。  泣いているのだ、翼が。  ぽろぽろと涙をこぼし、もう歌える状態ではなかった。 「どうしたの?」 「すみません。すみません……」  曲が終わるまで、和哉は翼の背中をさすり続けた。  水割りではなくミネラルウォーターを渡し、おしぼりで涙を拭いた。 「この曲……」 「うん」 「彼が、好きだったんです」 「うん」 「カラオケに行くと、いつも一緒に、歌ってたんです」 「うん」  可哀想に、と和哉は翼の肩を抱いた。  この流れからすると、その彼とは。 「別れました。一週間前に」 「そうだったのか」  性格が合わないから、と別れ話を切り出されたと言う。 (峰松くんと合わないなんて、どこの何様だろう) 「泣いていいよ。いっぱい泣いて、忘れなよ」  残り時間の10分、翼は和哉の胸で思いきり泣いた。

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