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第10話

 カラオケボックスを出ると、雨はまだ降り続いていた。 「雨、やみそうにないですね」 「そうだね」  二人で身を寄せ合って傘に入り、和哉はタクシー乗り場まで翼を送った。  翼は、もう泣いてはいなかった。  瞼は腫れていたが、表情は悪くない。  そんな翼はタクシーのドアが開いた時、思いがけない言葉を和哉にかけてきた。 「渡さん、僕のマンションに来てくれませんか?」 「え?」 「ご馳走になった御礼をしたいし、服も乾かさないと。それに……」 「それに?」 「今夜は、一人になりたくないんです」  和哉は、一瞬迷った。 (誘ってるのか?)  しかし、カラオケボックスであれだけ泣いていた翼を思うと、一人にするには心配でもあった。  元カレのことを、生々しく思い出させた罪の意識も働いた。 「いいの?」 「どうぞ」  短いやり取りで、和哉は翼のタクシーに乗り込んだ。  長い夜の、始まりだった。

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