8 / 42
微笑み
それから数週間もすぎて、クラスも落ち着いてきた。でもあいかわらず、理雄は一人でいつもいた。
誰ともつるむ事もなく。
「向田くんってさ、どうも、何か話してもちょっとなんていうか、相手されなそうっていうか・・」
「すごい美人だけどね。」
「まあ、色んな意味でちょっと違うんじゃない?」
他のクラスの連中はそんなような事を言っていた。
(……ホントに理雄ちゃんは、他人を寄せ付けないよなあ)
きっと笑えばすごいかわいいだろうと思う。でもニコリともしない表情を向けられれば誰も何も言えなくなってしまうというか。
綺麗な顔で無表情ってすごい冷たく見えるもんな……。ちょっとビビリな連中だと話しかけづらいかもね。
でも、それでも自分に自信があるやつは色々理雄にちょっかいを掛けていたけれども、ことごとく玉砕していた。
この前は……あの学校一モテると自負している(実際は絶対に俺のほうがモテていたと思うんだけどさ)生徒会長の伊藤センパイがみごと玉砕してたって聞いた。
その様子を見ていた淳司は
「いや、あれはねー。向田くんってさ、自分がどうすれば相手にダメージを与えるか知っててやってるっていうか・・・」
と言っていた。
「それが・・・向田くん、今まで見たこともないような、すごいかわいい笑みで話していたんだよ、伊藤先輩と。……それが、それから暫くしたら、先輩が赤い顔をして逃げるように離れていったっていう」
何があったんだろう?っていうか、そのかわいい笑みって見たかったかも、と俺は思った。
「見たかった、その理雄ちゃんの微笑み」
「いいだろー見たし~俺~。でもね、あれ、なんていうか、ダメージを与える為にわざとかわいく微笑んでたとしか思えないよなあ。何言ったかわからないけど、怖いよやっぱり理雄ちゃんって」
それでも、理雄が誰にも恨まれずにとりあえず"安全"なのは、理雄が竜輝会のTopの息子であるからだろう。
なにしろ、中学の頃は組の幹部が自ら送り迎えしていたというし、それじゃ怖くて何もできないよな。
.
ともだちにシェアしよう!