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汰一
すると、
「理雄さん」
ドアをノックして、父親の所の若頭が入ってきた。
「何?鷹山?」
俺が鷹山に声をかけると、すぐに、
「俺、帰るから」
汰一がそう言って出て行った。
すごく不思議に思ったけれども、そのまま、さよならとか言って帰っていった。汰一が帰ってから、鷹山があらためて話す。
「お父さまが呼んでます」
鷹山は父親の所にいる他の連中とは違ってきちんと、俺を名前で呼ぶ。他のやつらは"坊ちゃん"なんて呼ぶから嫌だった。彼はまだ若衆の時から俺の世話をしてくれて俺は好きだった。俺の送迎の車の運転も、本来なら若衆にやらしてもいいのに、前からしていた通りに変わらずやってくれていた。
でも、そんな鷹山が俺の部屋へ直接出向いて呼びにくるなんて殆ど無い。そういう時はあまり良い知らせではない時の事が多い。
今回もまた抗争とかであまり外に出歩かないようにって言われるのかな?と思いながら父親の部屋へ行った。
………
………
そして、次の日から汰一は俺を避けるようになった。
理由を聞いても汰一は俺を無視するばかりだった。
何が何だかわからない。
それから数日した後の放課後、忘れ物に気が付いて取りに戻ろうと教室の前へ行くと、汰一と他のクラスの連中の数人の話し声が聞こえてきた。思わず立ち止まってしまって、教室へ入れずにいた。
「なあ、向田と喧嘩したの?最近一緒じゃないじゃん」
「何?振ったの?振られたの?」
「そんなんじゃないし」
「なあ、お前がもういないなら、俺、手だしてもいいだろー?」
「いや、アイツは駄目だ」
「何で?」
「アイツ、周りにべったりガードついてるし。あの運転手、若頭だぞ?竜輝会の。あんなの近くにいちゃ無理無理ってかアイツとできてるかもね?」
「ああー。そうだと思ったよ。あの運転手なかなかかっこいいしねー」
汰一達はあははと高い声で笑っていた・・。
何でそんな事を言われるのかわからない。
何で汰一があんな事を言っていたのかわからない。
そのまま俺は教室へ入らずに校門まで急いで走っていって、待っていた車に乗り込んだ。そして、思わず鷹山に言い放ってしまった。
「鷹山。お前もう明日から俺の運転手、辞めて」
鷹山のせいじゃないのに。なのに、俺は鷹山に当り散らすようにそう言ってしまった。
それからも、ずっと汰一は俺を避けていた。
でも時折、そっと俺を悲しそうに見る。
それが分からなかった。
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