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会いたくない気持ちと会いたい気持ち
『待ってる。俺、いつも行ってたあの公園で待ってるよ』
汰一はそう言って通話を切った。
何で、今更、そんな事を言うんだ?今ごろ言うんだったらそんな事はもう言わないでくれたほうがいい。
会いたくない……だけど。
"……会いたい"
会いたくない気持ちと会いたい気持ち。自分でも分からない。
時計を見た。
夜遅くの外出は今は控えてくれと言われていたんだけど、でも、まだ夜になるには早い。
俺は立ち上がって、部屋のドアを開けた。
…………
……
…
その公園は家のすぐ裏にある。
この離れには、家人に咎められずに外へ行ける出入り口がある。だけど、あまり外出しない俺は殆ど使わない。今日来たカズヤも結局、普通に家の玄関から帰って行った。
かつて、家にも若衆を入れていた時のなごりなんだろう。俺の親父は、家には殆どそういうのは入れない。
家は家、事務所とは別にしている。でも、今日みたいな日はとても便利だ。
その出入り口を出てしばらく歩くとすぐに公園に着いた。
公園と言っても小さな児童公園で、昼間なら近所の小さい子供がいるだろうけれども、この時間になると殆ど子供なんていない。
そこに子供たちが上れる程度の緩やかな小山があって、上からすべる仕様の滑り台があった。小さな頃はこの滑り台が好きで何度も何度も飽きずに登っては滑っていた。その山は小さい頃はやたら大きく思ったものだけれども、今見るととても小さい。山というより、少し土が盛ってある丘?みたいな感じだった。
そこの滑り台の影に座れる場所があって、以前はよくここで汰一と話しこんでいたんだ・・・。
滑り台をぐるんと回ると、やはりそこに汰一がいた。
「理雄……」
俺は無言で汰一の脇に行って傍に腰掛ける。
「……話すことなんてないよ」
俺は、汰一の顔を見ることなく、ぼんやり前を見て言った。見えるのは桜の木だった。
・・・桜は散って葉桜になっていた。
「……理雄。こっち見てよ。俺を見て」
俺は静かに、汰一のほうを見る。
そして、汰一は
「……やっと、理雄をこうしてちゃんと……」
そう言ってそっと、俺を抱き締めた。
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