33 / 42
よく分からないやつ
家の前までくると、表玄関前に黒い車が止まっていた。あれは鷹山の……?俺は表から行くのを避けて、裏から行こうとした。
その時、後ろから呼び止める声がした。
「理雄さん、今は、夜には出かけないようにと言われているはずですが?」
振り返ると険しい顔の鷹山がいた。何故か鷹山は疲れている表情をしていた。
「まだ、そんなに遅くはないよ」
やっぱりあの車には鷹山がいたんだ。
「そういう問題ではありませんが。……顔の傷、どうしました?」
鷹山は俺の顔を見て怪訝そうに言った。
──……あ・・・。
そうだ、これは汰一に打たれたときについた。
「まさか?」
鷹山は自然と俺の隣にいるカズヤを睨んだ。
「いや、あの……」
明らかに、鷹山にビビっているカズヤ。
俺は慌てて言った。
「違う。カズヤの所為じゃないから・・なんでもないんだ。ただちょっと転んだだけだから」
鷹山は暫く無言になった後、
「そうですか……わかりました。」
そう言って、ちらっと俺の手元を見た。
……あ、俺、カズヤとずっと手を繋いだままで……。
急いで手を放す。
鷹山はカズヤに近づいて、
「カズヤさん。理雄さんを傷つける真似だけはしないで頂きたい」
と言った。一瞬、鷹山から、生臭いようなすえたような臭いがした。
──…これは・・・。
「鷹山、今日で俺は夜は出歩いても大丈夫になったのか?」
鷹山は暫く俺をじっと見てから言った。
「……そうですね。もう片がつきました。でも、やはり、理雄さんにはあまり夜は出歩かないで欲しいですが」
そして、鷹山は、
「では、失礼します」
と言って踵を返して車のある表玄関へ急いで行った。
俺は、カズヤの腕をぎゅっとつかんで裏口の方へ急いだ。
「血の臭いがした」
そうそっと呟くように言うと、カズヤが驚いて聞き返した。
「血の臭い?」
「多分、流盛会との抗争と関係があるんだ。俺が夜、出歩けなかったのもそう。でももういいって事はそれが終わったんだ」
そう、アレは血の臭いだ。父親も鷹山もそして、父親の組の若衆も時折その臭いをして来る。そういう商売を生業としてるからそれは分かってる。
だけど・・・俺はそれがとても嫌だ。
それを思うと何時も心の中がざらざらしてくる感じがした。
俺が無言でいると、
「リオ。深く考えるな。リオはそういうの、今、考えなくてもいいんじゃない?」
そう言って俺の頭を軽くぽんっと叩いた。
「頭叩くな」
「いいじゃん」
もう一度今度は頭をくしゃっとやられた。
笑っているカズヤ。
こいつは……だけど……。
心の中のざらざらが不思議と消えた。
ほんとにカズヤってよく分からないやつだ。
でも……。
ともだちにシェアしよう!