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第4話
「ユッキーは週末なにすんの?」
「僕ですか?出かけようかなとは思っています」
「また美容院か?」
「美容院は二週間前に行ったので、まだ行きませんよ」
「じゃあ何処に行くんだよ~?」
「どこでも良いじゃないですか」
風間が名雪に絡んでくるのは珍しいことではない。どこまで本気か知らないが、「遊びに行くから財布貸して」と言われたことは何度もある。実際に財布を取られたことはないので、ネタの範疇だと名雪は解釈している。パワーハラスメントだとも思わない。
そんなことはどうでもいい。
名雪には、今、看過できない事実があった。この会話を如月が、微笑ましそうに横目で眺めることだ。
あんた、俺が何で回答に困ってるか、知ってるくせに。素知らぬ顔して。
名雪のそんな意思が伝わったのか、如月はやれやれといった表情で、ぼそりと呟いた。
助舟を差し出す慈悲は残っていたようだ。
「服、見に行くって言ってなかったっけ?」
「そうです僕は、服を見に行くんです」
「へえ~、うちのガキにも買ってよ」
「風間係長。知らない人から買ってもらっても、お子さんは喜ばないと思います!」
「いや、金出してくれたらそれでいいから。あ、やべ、そろそろ帰らんと。じゃ」
何か用事があるのか事務室を後にする風間。嵐が去ったような静けさの中、名雪も帰り自宅を済ませる。
「お先に失礼します」
「うん。”良い週末”を」
職場を後にして、名雪は最寄り駅まで辿り着いた。次の電車は十分後。名雪はスマートフォンを取り出し、周囲を気にしながらメッセージを打ち込む。見られるリスクを犯してまで、この状況で送る必要があるのは、相手の退社時刻が今頃だろうと踏んだからである。
――明日は、9時にそちらに伺います――
返信が帰ってきたのは、電車に乗る直前のこと。
――待っているよ――
ディスプレイに表示された送り主の名を指の腹で撫でること数秒。名雪は我に返り、表情を元に戻す。きっと緩み切った顔をしていただろう。ほんの少し羞恥を覚えた。
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