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第6話

数ヶ月前のことだ。 初めて、職場以外の場所で、名雪は如月と出くわした。運命の場所は博物館。歴史物の展示を見ている途中で、もしやと思った。連れがいる様子はなかったものの、流石に閲覧中に声をかける勇気はなく、ミュージアムショップで目録を眺めているところで声をかけたのだった。 二人して偶然に驚きながら、ちょうど昼時だったこともあり、昼食を共にし、展示の内容について、あれこれと語り合ったのである。その後、共通の趣味があったということで、雑談の話題として何度か上がった。  更に関係が変わったのは、そこからしばらく経ってからだ。課の親睦会ということで飲み会が開かれた時のことだ。二次会が終わる頃にはすっかり赤い顔になっていた如月と、一緒に帰ることになったのだ。酒に弱いと本人が度々口にしているので知っていたが、ここまでだとは名雪も知らなかった。しかも、口にしていたものと言えば、最初のビールを除けば、カシスオレンジだとか、カルアミルクだとか、甘いカクテルばかりだったというのに。  名雪はというと普段と変わらない顔をしているが、顔色に表れないだけでかなり強い酒を飲んでいる。というか飲まされていた。外見に似合わず酒豪と言われる度に、飲むペースが遅いだけと、否定して回っているが効果はなかった。  一人なら、電車に乗って帰るところだが、如月と同行するとなるとタクシーで帰った方が良いだろう。体格差の問題で、名雪が如月を担ぐことは難しいと判断したからだ。   タクシー会社へ連絡、近くにあった自販機でお茶を購入して、如月に差し出した。  程なくしてタクシーが到着し、一緒に乗り込んだ。 「名雪ちゃん、ごめんね」 「いいですよ。このまま係長が道路で寝るんじゃないかって心配でしたから」 「流石にそんなに酔ってないよ。俺もいい歳だからさ、自分の限度くらいわかるって」  いい歳。  如月は何度か名雪にそう言うことがある。もう自分はおじさんだとか、もう若くないとか。そんな風に言ってのける。恐らく、名雪と十歳程度年齢差があるから、そんなことを口にするのだろう。  内面はともかく、如月の外見は若々しく見えるため、名雪はその発言を聞くたびに「それはひょっとしてギャグで言ってるのか」と突っ込みたい気持ちで一杯になった。  人生五十年などと歌っていた時代ならともかく、人によってはその倍近くまで生きるこの現代で、四十手前というのは、まだまだ若い部類なのではないだろうか。男盛りなどという言い方も、ちょうど如月位の年齢を表すのではないかと名雪は思うのだ。

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