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第8話
二週間前の土曜日、夕食を共にした時のことだ。
それは、毎年恒例の院内行事が片付き、その打ち上げとして、如月が提案したものだった。
場所は、職場から離れた場所にある完全個室の居酒屋。
デートという言葉が名雪の頭を一瞬だけ過ったが、すぐにその考えを改めた。あくまでこれは打ち上げであって、それ以外の意図はないはずだ。
そう分かっているのに、 何故か装いは比較的背伸びをしたものになってしまった。見た目がではなく、値段的な意味合いである。無難な服装よりも、すこし奇抜なものの方が似合うのだから、仕方がない。
似合う服か、無難な服か。
ええいままよ。無難で似合う服を選べば良かろうなのだ。
名雪は、指定された時間の十分前には店の前に着いてしまい、そわそわしながら待っていた。すると、それから五分ほどして如月がやって来た。
名雪にとって、私服の如月を見るのは、この時が初めてだった。
グレーのテーラードジャケットに白のインナー、細身のジーンズ。王道の組み合わせであり、体型をカバーしやすいとは言われている。しかし、誰もがやるスタイルだからこそ、素材の良さが目立つ着こなしでもある。
係長って、大柄ってわけじゃないのに、バランスが取れてるんだよなあ。足長いし。
「何で凝視する?」
思わず観察していたのがバレてしまい、名雪はバツが悪そうな顔をする。
「あ、いや、格好いいなと思って」
「そう?ありがとう。そういう名雪ちゃんは、あれだね」
「何でしょうか?」
今度は如月が凝視する番だった。名雪は後悔した。
やっぱりもうちょっと大人しめの方が良かったか?
名雪自身としては、遊び心は押さえたつもりであった。しかし、それは主観でしかない。第三者から見れば、違った印象に写るかもしれない。
「大学生って言われても通じそうだね」
この日の名雪の服装は、トップスは、赤紫と紺のバッファローチェックのセーターから白いシャツの襟と裾を覗かせ、ボトムスは、キャメル色のクロップドパンツ。所謂フレッピースタイルと言われる着方であった。
名雪は確かに、童顔だと言われる。一昔前、女性ならばクリスマスケーキ理論と呼ばれた年齢は通りすぎ、三十路が見えてきた年頃だというのに、実年齢より下に見られることは多々ある。
ただ、その状況は喜ぶべきなのか、悲しむべきなのか、よく分からないのが心情である。
「すいません。こういう時、どんな顔したらいいか、分かんないです」
「笑えばいいと思うよ」
どこかで聞いたようなやり取りに、あえて突っ込まず、この時、名雪史上最上級の笑みを浮かべたつもりだった。
それを受け、如月はというと静かな微笑みを返してきた。宮沢賢治リスペクトかな?と名雪が思っていると、ある形容詞を告げられた。
「怖い」
「何でですか!今、笑ってたでしょ!」
「変に力んで笑うからだよ。普通の笑顔なら、別に、うん」
「別にって何ですか。演技派女優ですか」
「うん、とりあえず、入ろうか」
またもやどこかで聞いたようなフレーズを交えながら、二人で店へと入っていった。
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