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第10話

名雪は思わず項垂れ、深い溜め息をついてしまう。 何故ほんの少し小首を傾げるのか。何でそんなに少年のように笑えるのか。 自分では、おじさんとか言ってくる癖に、この人は本当になんなんだろうか。 この人は、自分の魅力を分かった上で、こういうことをしてくるんだろうか。 「狡いですよね。先に予定がないって言ってるから、断れないじゃないですか」 「君が仕事の時、俺にいつも同じことするじゃん」 真似っ子だよ。 そうやって如月は悪戯っぽく笑ってみせた。 「係長って、時々カマトトぶりますよね」 「カマトトって、君、本当に二十代?」 「失礼な。って、違う違う。次の連休ですよね。僕の休みでよければ、貰ってください」 ご一緒させて下さい。 その言葉は、仕返しになっただろうか。 結局その日は、如月の口から行き先などの詳細は語られず、また、改めて話すと濁されてしまった。 もしかしたら、この時点では決めかねていたのかもしれない。 その次の月曜日に、場所と集合時間を伝えられた。敢えて名雪は触れなかったが、つまりはデートである。前回の飲み会はまだ、仕事の延長ととれなくはなかったが、今回のそれは、仕事との結び付きはない。 食事のあとは、別れ際に頭を撫でられ、名雪が赤面した以外は、これと言って進展はなかった。如月はふふっと笑って去っていった。 もう少し名雪が違う反応を見せていたら、進展があったのかもしれない。 焦らしているわけではない。そんな手管を持ち合わせてはいない。そもそも、そのテクニックがあれば、あのような想いの伝え方にはならなかっただろう。 まだ、誰のものでもありません。 名雪はついこの間まで、そんなフレーズが使える状態だった。 顔立ちこそ、幼く見られがちだったが、親類は、名雪より年長者ばかりだったこともあり、考え方等は大人びていた。そのせいか、同世代の人間が子供っぽく見えてしまった。分別はあったため、集団から孤立することこそなかったが、「ちょっと変わった奴」という認識で見られることが多く、そういう対象として見られたことがなかった。名雪自身、誰かを恋愛対象として考えたことはなかった。 自分の性癖に気がつかないよう、他人との距離を詰めることを恐れていたのかもしれないと、名雪は今になって思った。

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