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第89話
お昼が過ぎて陽が傾いて外が薄暗くなってきた頃。
さっきまで静かだった病院がざわめきだす。
俺達が居るのは待合室で廊下ではバタバタと走り回る足音が聞こえてくる。
「終わったっぽいね。」
「うん…。」
大丈夫、大丈夫、大丈夫。
さっきから心の中でずっと繰り返している言葉。
自然と拳を握る力が強まる。
「愁、春野くん。治療室にいらっしゃい?」
ドアが開いて奏が顔を覗かせる。
俺達は立ち上がって治療室に向かった。
治療室に向かう間も大丈夫だってわかっていても不安で仕方なかった。
ドアを開けると治療室の椅子に蒼が座っていて煙草を吸っていた。
千尋とベットに座って同じく煙草を吸っている。
「あんた達ここが病気だって本当にわかってる?」
奏が呆れたようにため息混じりに注意する声が聞こえた。
でも、俺にはそんな声聞こえなくて蒼の所に駆け寄る。
「蒼!!」
「心配かけたな。」
そう言って俺の頭を撫でてくれる蒼。
その手の温もりに蒼が無事に帰ってきた実感がわく。
「怪我してない?」
「ああ、大した怪我じゃねえよ。」
「そっか。」
俺はふと思い出して千尋の方を向いた。
約束を守ってくれてありがとう!って言いたかったんだけど千尋と愁が抱き合ってるのを見て言うのを辞めた。
待っている時にずっと俺を励ましてくれたけど愁も不安だったに違いない。
今は2人の時間を邪魔しない様にしよう。
「もう帰れるの?」
「今日は帰られる。」
帰るか?と聞いてくる蒼に頷くと蒼と一緒に治療室を出た。
車で来てるんだけど疲れてるだろうし念のためタクシーを拾う。
タクシーまでの道もタクシーの中でも俺達は繋いだ手を離さなかった。
お互い少しでも長く相手の体温を感じていたかった。
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