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第90話

家に着くと靴も脱がず抱きしめ合い求め合った。 たった1日。 俺にとってはまるで一生の様に長く感じた。 どちらからともなく2人の唇が合わさる。 俺は蒼の蒼は俺の感触を熱を吐息を感じてここが玄関であることも忘れて更に求め合う。 お互いが我に返ると恥ずかしくなって俯いたまま靴を脱ぎ部屋へと足を進めた。 その間も繋がった手は離さなかった。 「怪我、大丈夫なの?」 「ん?ああ、擦り傷と切り傷位だ。」 「そっか、よかった。」 本当はもっと違うことを言いたいのに言えない。どう言葉にしていいのか分からない。 不安で不安で怖くて怖くて。でもそれはただ俺が弱いだけで。こんな事蒼に言ったところでどうしようもない。何より蒼はこうしてここにいる。無事に帰ってきてくれた。 「待っててお風呂いれてくる。」 あのまま居ると泣いてしまいそうで、弱い姿を見せて心配かけたくなくて困らせたくなくて、とっさに席を立つ。 「はぁ…。…ぅッ…ゔぅ、」 1人になると我慢していた涙が溢れてくる。 すると、ふわりと後ろから誰かに抱きしめられた。 「まったく、お前は馬鹿だな。」 「…ぅぅ…ごめッ…」 俺を抱きしめていた手が俺の肩を掴み俺を自分の方に向かせた。 そしてまた、俺を優しく抱きしめてくれる。 「大丈夫だ。俺は死なねえよ。」 頭の上から聞こえてくる低くて響きのいい声。 「お前を1人にしない。」 俺は蒼の腰に手を回しキツく蒼にしがみついた。 「怖かった…。蒼なら大丈夫だって思ってても、もし…って考えちゃって。そんな事考えちゃうのは俺が弱いからで、それを蒼に言ったら蒼を困らせちゃうって…ッ…思って…」 「全部言えよ。俺は春野がこうやって1人で泣いてるのを見る方が嫌だ。」 「…ごめんッ…うぅ……ッ」 それから暫く蒼は俺が泣き止むまで抱きしめていてくれた。 俺が泣き止んで、一緒にお風呂にはいっても湯船の中で俺を後ろから包み込んでくれる感触や匂いを感じてまた涙が溢れた。

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