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第8話

 それから数日はサクラに会う事はなかった。  でも、考えてみたらそれが普通だ。たった2日、二度の逢瀬に自分は何を期待したと言うのか。  高根の花だと分かっていたのに、あの人はミオにとって遠く、あんな距離で話をするような存在ではなかったのだ。  頭では分かっているのに。でも、と心が異を唱える。  ペットになってよ。と言ったサクラ。  そしてミオを運命の番だと言ったのも、サクラだ。  あんな事を言われたのは初めてで、まだ揶揄われているのだろうかと訝しんだが、サクラの目は本気で言っているとミオに思わせる位真剣なものだった。  運命の番。  出会った瞬間に、アルファはオメガを、オメガはアルファを求めるのだと言う。  それは言葉にしなくても体が、心が求める運命の相手。  サクラの運命の番がミオだと。 運命の番なんて信じている訳ではないけど。でもサクラの言葉はミオの心を縛り付ける。  自分は感じなかったが、サクラは何かを感じ取り運命の番と言ったのだろうか? 学校にいる時はつい、サクラがどこにいるか探してしまい、辺りをキョロキョロと見回す癖がついてしまった。鳥野には落ち着きがないと言われたが、気にしなかった。  1週間が経った。もう周りを気にする事もなくなったというのに、飛び込んできた『猫目先輩』という単語にミオの足が止まった。 「やっぱりお似合いよね」 「お相手は蛇村製薬の御曹司でしょ?私達とは違うわよね」  廊下ですれ違った女子生徒逹の会話が聞こえ、ミオは窓の外を見る振りをしながら足を止めた。 「今日はこれからデートかしら」 「迎えに来てくれるなんて優しい婚約者(フィアンセ)ね、羨ましい~!」    婚約者が迎えに来ている?  女子生徒逹が歩いてきたのは昇降口の前だ。 もしかして、と思いミオは早歩きで3年生の靴箱へと近付いた。  靴箱の影から外を見る。高級車が並び、それぞれの車の前には運転手なのか執事なのか黒のスーツを着た男が主人を待つ忠犬のように待機している。  ここは高校だよな?といつも思ってしまう。  視線を巡らせれば、車の先頭付近にサクラとおぼしき後ろ姿が見えた。影から出て、帰途につく生徒に混じりながら昇降口から外へ出る。 「だから、僕は自分の車で帰ると言っているだろう」 「わざわざこの僕が迎えに来たと言うのに、なんだその言い種は」 「頼んだ覚えはない」  サクラの前にはスラリと背の高い青年が立っていた。  身長180センチ前後、きっちりと撫でつけられた黒髪の下には細い一重の瞳、薄い唇からは神経質そうなやや高めの声。婚約者は次期社長と聞いていたので、もっと年上の大人の男を想像していたが、20代前半に見える。 「猫目の車は来ない、僕が断っておいた、君はこれから」 「勝手な事をするな!」  恫喝は、まるで子猫が威嚇しているようにしか見えない。蛇村はそんなサクラの態度に肩を竦ませ、やれやれと宥めるように、今度は猫なで声を出した。 「サクラ、君は僕の婚約者だ、何の不満がある、この後は観劇、そしてディナーだ、もう予約を入れてある」 「勝手に僕の予定を決めるな、行く気などないぞ」 「勝手ではない、君の両親は快諾している」 「……」 「そうだ、大人しく僕に傅けばいいものを何故反抗的な態度を取る、さぁ行くぞ、サクラ」 「気安く呼ぶな」 「……生意気な口だ」 「……離せ!」  蛇村の手がサクラの顎を取る、小さな顔の顎から鼻までを掴まれてしまい、サクラの顔が憎らし気に歪む。 「!!!」 「大人しくしていればいいものを、可愛げのない猫だ」 「止めてください!」  言葉よりも先に体が動いていた。制止の言葉を叫びながら、ミオは蛇村の腕を掴みサクラから引き離す。サクラは素早くミオの背後に回り、蛇村を睨み付けた。 「……何だい、君は」  押し殺した声が蛇村の喉から絞り出された。冷たい目が射るようにミオを突き刺す。  居心地の悪さを感じながらも、自分のした事は正しいと信じて口を開く。 「……嫌がっていました……」  蛇村に対しての返答ではなかった。だって、何だと言われても、ミオはサクラにとって「何者」でもないのだ、答えようがない。  しかしミオの腰を掴み背中から顔を出したサクラは、蛇村に向かい堂々と言い放った。 「こいつは僕のペットだ」

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