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第11話

 駅が見えてきた、電車に乗るのは久しぶりだ。夏休み実家に帰った時以来だ。  普段は車の送迎で登校しているサクラも電車は久しぶりだと言う。  駅に着き、二人して切符を買い改札を通る。その時から気になっていたが、サクラは老若男女から視線を集めていた。  稀有な美貌がそうさせるのだろうか、それとも首から見える赤い首輪が珍しいのだろうか。ダイヤが付いている高価な物だ。変な奴に目を付けられたら大変だと、ミオは自分達の周囲に意識を集中させた。 「……そう緊張するな」 「え……?」 「僕と二人でいるのに、周りばかり見るとは無粋な奴だ」 「は、はい?」 「この僕が隣にいるのに」  ホームに電車が減速しながら近付いて来た。完全に停まり、扉が開く。陽が傾き始めた夕刻、車内は八割程埋まっていた。 「お前は僕の前に立て、これなら僕をしっかり見られるだろ?」 「……」  サクラは無邪気な笑顔を浮かべると、空いている座席に座った。  これなら多少はサクラの存在を隠せるかも知れない。不躾に見てくる者もいないので、少しだけほっとしてつり革に掴まる。  車両は獣人専用車にした。別に獣人は珍しい存在ではない、だが完全に人の姿へ変わるのを得意としない者もいる。  現にこの車両には獣の耳や尻尾が出ている者だけではなく、獣面でスーツを着ている獣人もいるのだ。  偏見はないが差別がないとは言えない、人が怖がるといけないという配慮の為こうした車両は作られている。  ミオ達のように一見すれば人か分からない姿の者も乗っているが、匂いで同族と知れる。獣人は鼻が人より利く。間違える事はない。  そういえば蛇村はサクラから番の匂いがすると言っていた。サクラはオレの事を番だと言う……でも、オレは何も分からない。  どういう事なんだろう。  そんな悩みが顔に出ていたのか、サクラは小さな口を開くと婚約者の話をした。 「あいつは親が決めた婚約者だ」 「……そう、なんですね……」 「あいつの言う通り開発中の新薬もあいつの会社との共同事業だ……でも、僕には関係ない事だ」 「……」  真っ直ぐ見上げてくる琥珀色の大きな瞳に見いられるように、ミオはただ見つめ返す事しか出来ない。  親が決めた婚約者。国内でもトップクラスの富豪一族、彼はそこの御曹司。婚約者がいても不思議ではない。  サクラは蛇村を嫌っているように見えるが、婚約者という立場は受け入れているように見える。  だからこそ、ミオは何も言えなくなるのだ。  電車が減速を始め、間もなく次の停車駅とアナウンスが入る。  完全に停車しドアが開くと、周囲の獣人達が降り同じ位の人数の獣人達が乗ってくる。もう一度周囲の警戒をしてから、ミオはサクラを見つめた。  透き通るような白い肌と艶やかな黒髪。そういえば、サクラは獣化したらどんな姿になるのだろう。  電車の中にも猫科の獣人は居るようだ。丁度視線の先にいたのは、腰から覗く長い尻尾も髪の間から覗く耳もグレイの毛色。やや猫背なのは猫科特有のものだ。  でも、サクラは猫科に見えない程背筋がキレイに伸びていた。  学内での獣化は禁止されているので、見た事はないし噂も聞いた事もない。想像するに、この白い肌のような白猫か艶やかな黒髪のような黒猫なのか……。 「ミオ」 「……!」 「着くぞ」 「あっ……はい……」  サクラの言葉で我に返る。思考から戻ると、呆れた顔のサクラと目が合う。 「何を考えていた、行くぞ」 「……はい」  サクラが立ち上がるので、ミオは邪魔にならないよう一歩下がる。立ち上がったサクラを見下ろす。丸いフォルムの頭頂部はなだらかで、猫耳なんてものは生えてない。それは自分も同じだ。  思えば初めて他人の獣化に興味を持った。お願いすれば見せてくれるだろうか、なんて思ったがきっと無理だろう。  でも、想像の中の猫の姿のサクラはとても愛らしい黒猫で、それはなんだか懐かしいもののように感じた。

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