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第12話
改札を抜け駅舎を出ると大きなロータリーにはバスやタクシーが並んでいた。
駅前には百貨店に大型商業施設、映画館が点在しているからか平日であっても多くの人通りがあった。
「歩いてどの位なんですか?」
「……10分程だが、その必要はないみたいだ」
「え?」
サクラは歩道ではなく、ロータリー沿いに歩き出した。ミオは疑問に思いながらもその背中を追った。
「サクラ様」
ロータリーに停まっている一台の黒塗りの車から降りてきたのは、黒いスーツ姿の男だった。
サクラよりも年上だろうか、多分蛇村と同じ位で20代前半に見えるその男は丁寧にお辞儀をすると後部座席のドアを開けた。
「迎えに来たのか……」
「サクラ様が電車に乗られたご様子だったので……」
「……」
二人のやり取りを聞くに連絡があって迎えに来たという訳ではないようだ。きっとサクラの位置は首輪のGPSで常に確認しているのだろう、だからこそこうして迎えに来れたのだ。
「サクラ様」
男は静かに急ぎたてるでもなくサクラへ呼び掛ける、だがやけに威圧的だ。
それは男の持つ雰囲気がそう感じさせるのか、単に主人が勝手に予定を変更して連絡もなしに電車で帰って来て怒っているからなのか。
ミオには分からなかったが、二人の間に流れるただならぬ空気に身動ぎ出来ずにいた。
サクラは大仰に溜息を吐き、口を開いた。
「ミオ、僕は迎えの車で帰る」
「あ、はい……」
「……ここまで……」
隣に並ぶミオを見上げ、サクラは口ごもる。ふいっと視線を外し、何かもごもごと言ったかと思うとさっさと後部座席へ乗り込んでしまった。
乗った事を確認すると、男はドアを閉めミオに向き直った。
正面から真っ直ぐに見つめてくる無表情の男の顔はサクラ同様にとても整っている。
つり上がった瞳の色は金色、肌は褐色で髪は艶のある漆黒だ。外国人と見違える風貌だが、何かしらの獣人なのは匂いで分かる。更に言えばバース性はサクラと同じオメガだ。だが、サクラ同様に見た目だけでは判断出来ない。
ミオ程ではないが、180センチを超える長身にスーツの上からでも鍛えているのが分かる体格をしている。
威圧感さえ感じる堂々とした佇まいは主人に傅く執事には見えなかった。
「……ここまでサクラ様を送って下さり、ありがとうございます」
男は腰を折って形だけの礼をしてきた。
「い、いえ……」
「それでは、失礼致します」
長い足を動かし運転席へ回ると車は直ぐに発車した。
ミオはそれをただ黙って見送る事しか出来なかった。
改めてサクラが別の世界の人間なのだと、思い知らされた気がした。
***
「呼んでないぞ」
車が発進して直ぐにサクラは視線を運転席へと向けた。
振動を感じさせない程静かな運転で車はスムーズに車道を走っていく。
運転席の男、兵藤コテツはルームミラーでサクラをちらりと見たが、直ぐに視線を前方へと向けた。
「コテツ」
「……予定を変更されたのでしたら、連絡をして下さいと普段から言っておりますよね?」
「一人で帰って来た訳じゃないからいいだろ」
「そういう問題ではございません」
「……連絡をしなかったのは悪かった、でも連絡をすれば直ぐに迎えに来ただろ」
「当然でしょう」
「……」
「電車に乗りたかったという訳でもないでしょう?」
「……」
「蛇村様からは今日の予定は土曜日に変更すると連絡がありました、サクラ様もそのおつもりで」
「……分かった……」
車が赤信号で停まる。サクラは車窓から見慣れた風景を見ていた。
コテツは思案顔でルームミラーからサクラを見ていたが、ふと思い出す事があり首を後部座席に向けた。
「……初恋の君だったんですか……?」
サクラの目が大きく見開く。その表情を見て、コテツは顔を正面に戻した。
信号が青に変わったので、アクセルを踏む足に力を込める。
滑るように前進する車内は静かだ。
「……あいつは覚えてない」
「……小さい頃の事ですからね……」
正面を見ているコテツの瞳は優しく細められた。後部座席の主人を想い優しく声を掛ける。
「運命の番なんでしょう?」
「……分からん……そんなものないのかも知れない……大体そんなものあったとしても僕は……」
「蛇村様の事はあまりお気になさらずとも平気ですよ、私が何とか致します」
「そうは言うが……」
「サクラ様のお心のままに」
「……それが分からないと言っているんだ……」
コテツは柔らかい笑みでもう一度繰り返す。
「サクラ様のお心のままに、皆貴方の味方です、ご安心下さい」
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