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第13話

 あれはまだ小学校に上がる前の事。あの頃の事はもうおぼろげなのに、あれだけははっきりと覚えている。  幼少の頃のサクラは人型に変身するのがまだ苦手で、家の中では猫の姿のまま過ごす事が多かった。それでも幼稚園に入る頃には耳や尻尾が出ていても人型を保つ事が出来るようになっていたが、それでもまだ不安定なままだった。  成長と共に変化も上手く出来るようになるのが獣人だ。  子供の獣人であれば、耳や尻尾が出ているのは当たり前なので猫目一家で出かける時も獣人が着るような子供服を着せられて出掛けた。  帽子からは耳が、ズボンからは尻尾が上手く出せるよう工夫が入った衣服だ。  出掛けたのはある遊園地。サクラが住んでいる土地からそれ程遠くない場所にあるそこは休日とあって、猫目家のような家族連れで賑わっていた。  この日は両親とサクラ、弟のツバキの四人で遊びに来ていた。勿論護衛は付いていたが、幼いサクラは気付いていなかった。  新しく買ってもらったばかりの洋服はちゃんと尻尾を出せるようになっている。黒色の尻尾をゆらゆらと揺らしながらサクラは遊園地を楽しんでいた。 「おにいちゃん、あれ食べたい」  サクラと手を繋ぎベンチに座っていたツバキが、道行く人が持っているソフトクリームを物欲しそうに見上げる。  弟はまだサクラ程上手く変化出来ないので半獣のような見掛けをしている。サクラとは違う白猫の子供の顔はいつみても愛らしい。  サクラは頭の上の黒色の猫耳をぱたぱたと動かし、弟の隣に座る両親を見た。  父と母は遊園地の地図を広げ何やら話し込んでいる。 「ソフトクリームか……」  辺りを見回せば反対側にソフトクリームを売っていそうなお店があったので、サクラはツバキの手を離しベンチから降りた。  両親は次に行く場所で何やら揉めているようだ。普段は仲が良いのに、意見が合わない時はとことん合わなく二人とも譲らない頑固な性格なのでまだ時間がかかるだろう。 「おにいちゃんがすぐ買ってきてやるからな!」  兄の言葉にツバキは嬉しそうに笑った。  可愛い弟の為に、そして一人でも大丈夫な所を両親に見せたい気持ちで、はりきって売店へ向かった。  売店はベンチからでも見える場所にある。遠い訳ではないので大丈夫だろうとサクラは安心していた。  サクラ達を護衛していたSP達は多少慌てる事となるのだが、目標を見失ってはいなかった。この時までは。  売店には列が出来ていた。何を売っているのかメニュー表は見えないが、店の前の看板にソフトクリームが出ていたのでここで買えるようだ。  サクラは肩から下げているポシェットの中に小銭入れを入れていたので、それ取り出し順番を待った。  その時、直ぐ近くで大きな音がした。それは乾いた発砲音のような音で、周りの人達は一斉にざわついた。  サクラもその音に驚き、腰から伸びた尻尾をぶわりと大きく逆立てた。 「……?」  周りの人達のざわめきは次第に落ち着いていったが、サクラはまだ状況が飲み込めずにいた。  突然肩を叩かれ、サクラは先程の動揺もあり大きく肩を揺らすと人型の変身を解いてしまった。 「大丈……え?!」  後に並んでいた子供連れ夫婦が気を遣い声を掛けたのだが、それは逆効果だったようだ。  サクラは自身に起きた変化にも驚き、またパン!と乾いた音がしたのにも驚きその場から逃げ出してしまった。 「あっ……!」  その場にはサクラが着ていた服とポシェットが残された。

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