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第14話
「さっきの子、大丈夫かしら?」
「一人でおつかいに来たって事はご両親も近くにいるだろうけど……とにかく心配だし、遊園地の人に話してくるよ、この服は……」
サクラの後に並んでいた夫婦は地面に落とされたサクラの服や靴、ポシェットを放置しておくのもと思い拾っていた。
「すみません、その服はこちらで預かります」
話を割るように入ってきたのは小学生位の褐色の肌の子供だった。
「弟のものです、ありがとうございます」
「……あぁ、そうか……弟さんは……」
「いま、探してます、でも直ぐに追いかけたので大丈夫です」
「そうか、それなら大丈夫だね」
服を預けると子供はぺこりとお辞儀をして立ち去った。子供らしくない立ち振舞いに違和感を感じたが、それ以上どうする事も出来ずに二人は顔を見合わせた。
「おとうさん、さっきの音なぁに?」
「あぁ、風船が割れた音だよ、びっくりしたね」
夫婦と一緒にいた垂れた犬耳を付けた幼稚園生位の男の子が父親に向かって首を傾げた。
「うん……さっきの子、大丈夫?」
「うーん、大丈夫って言ってたよ、もうおうちの人と会えてるよ」
父親の大きな手が茶色い垂れ耳と同じ色の髪を優しく撫でる。
子供はくすぐったそうに目を細めたが、思い直し心配そうな表情を浮かべた。
「……そうかな……」
「何か心配?」
「あのね……声が聞こえるんだ」
***
サクラは黒猫の姿のままで植え込みの中で震えていた。
猫の姿になって直ぐに大きな手に捕らえられたのだが、引っ掻いて逃げ出しあちこち走り回り迷子になってしまった。
「ミャウ……」
練習をすればこの姿のままでも喋れるらしいが、サクラはまだそれが出来ない。
か細い声は園内の賑やかな音楽と、道行く人達の声に掻き消され誰にも届かない。
「……ミャウ……ミュウミュウ……」
大分落ち着いたので人型に戻ろうと思えば戻れそうではあるのだが、服がない。
更に猫のままで出ていってまた捕まるのが怖くて、サクラはここから動けずにいた。
誰か来て……僕を見つけて……。
このまま誰にも見つけて貰えなかったらどうしよう。
心細いままで小さく鳴く。
「ミャウ……」
その時背後でがさがさと植木を掻き分ける音がした。
体を固くして身構えたサクラだったが、聞こえてきた声に後を振り返った。
「いたいた……ねこちゃん」
そこには自分よりも小さな、垂れた茶色の耳を頭に付けた男の子がいた。
「だいじょうぶ?」
男の子はしゃがんでサクラの方へ両手を差し出した。その顔は心配そうで、だけど子供ながらに安心させようとでも言うのかぎこちない笑顔が浮かんでいる。
サクラが迷ったのは一瞬だった。
「ねこちゃん」
サクラが広げられた両手の中へ入ると、男の子は胸の中に抱き抱え、よいしょと言いながら立ち上がった。
弟と同じ位の歳だろうか、持ち上げてくれたはいいのだが落とされないか心配で、サクラは男の子の服に爪を立てた。
「だいじょうぶだよ、こわがらないでね」
丸い頭を懸命に撫でてくれる手は小さくて温かい。サクラは徐々に警戒心を解き、小さな腕に体を預けた。
「ぼくはミオ、ねこちゃんは?」
「ミャウ」
「みゃーちゃん?」
「ミャウウ」
「みゃうちゃん、あのね、みんなが探してるから、早くかえろ」
「……ミャー」
「うん、きみのおかあさんとおとうさんの所につれていくよ」
植え込みの中から出ると男の子はキョロキョロと辺りを見回した。
すると、直ぐにさっき見た褐色の肌の少年がやって来た。
「お迎え来たよ」
「サクラさま!」
「はい、けがとかはしてないみたい」
腕の中のサクラを両手で持ち上げ、落とさないよう慎重に少年に手渡す。
少年はサクラを抱きしめ、安堵の表情を浮かべた。
「ありがとうございます」
「見つかってよかった、ぼくね、鼻がいいんだ、あと耳も、だからねこちゃ……みゃうちゃんの声聞こえたんだ」
「……みゃうちゃん?」
「あ、おかあさんだ!じゃあね、ばいばい」
「あ……」
男の子は預けられた安堵か、笑顔を浮かべ手を振りながらその場からいなくなってしまった。
あれが幼い頃のミオとの思い出。
サクラはずっと覚えていた、だけどミオはちっとも覚えていないようだ。
無理もないのかもしれない。
話をしたのはほぼ猫になっている時だけだ。
名前だって自分から名乗ったりしていない。
ミオに抱かれた時の温もりも優しい匂いも覚えていたのに。
運命の番、そう言えばもしかしたらミオは信じるかも知れない、そう思っての賭けではあるがそれはどうやら失敗したらしい。
本気になんてしてなさそうなミオにサクラは少しの寂しさと苛立ちを覚えた。
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