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第19話

 地図を時折確認しながらサクラがいるであろう夏のエリアを目指す。人の多さもあり、移動もスムーズではない。そして、パークのあちこちでグリーティングをしているマスコットに出会えばつい歩く速度も緩くなる。  走れば5分強で着けるエリアだったが、倍以上の時間が掛かってしまった。 「ジェットコースターはあそこに見えるけど……」  ミオの傍らに立ち辺りを見回していたツバキはスマホを操作し始めた。またどこかに連絡を取っているのだろうか、ミオは静かに見守った。 「……兄さん達は移動したようですね、こっちです、夏のエリア内にある船に乗ったようです」 「船、ですか……」 「パークを半周して戻ってくるコースのようですね、行きましょう」  ミオにもその船は覚えがある。乗った事もあった。乗客数が多いので待ち時間少なく乗れる為、アトラクションの合間に乗った記憶がある、きっとサクラ達もそうなのだろう。  ジェットコースターから船の発着場所は直ぐだった。 「この辺で待ちましょうか、出入口が見えますから」 「そうですね」  パークに入りずっと気を張っていた事もあり、ベンチに座った途端深いため息が漏れる。それは隣のツバキも同じようで、肩から力を抜きリラックスしているように見えた。 「ツバキ様」 「コテツ」  座った二人に駆け寄って来たのは、見た事のある執事だった。コテツと呼ばれた褐色の肌の青年は腰を折ると、ツバキに耳打ちをした。 「……そうか、まだ時間はありそうだね、休憩に丁度いい」 「私はお二人に飲み物を買ってまいります、お飲み物にしますか?それとも……」 「そうだね、少し暑い……アイスクリームがあればそれを」 「貴方も?」 「えっ?あ、は、はい」 「では、ここでお待ち下さい」  コテツは近くの売店へ小走りに向かっていった。  辺りには軽快な音楽が流れ、パーク内を楽しんでいる人達は皆笑顔だ。それを見ているだけでも、何だか気分が軽くなる。  それはミオだけでなくツバキも同じようで、今の表情は寮に迎えに来た時より和らいでいる。  動くと少し暑いが、水辺という事もあり爽やかな風が心地よい。薄っすらと鼻に届く潮の香りも観光気分を盛り立てる。  これがツバキとではなく、サクラと二人だったら。一瞬浮かんだ想像をミオは頭を振って追い出した。そんな未来ある訳がないのに。 「小さな頃にここへ連れて来て貰った事があるんだ」  独り言のようにツバキが話し始める。  透き通った白い肌はサクラと同じでも、目の色は違うのに目元はよく似ている。  明らかに違うのは歳上のサクラに勝る体格だろう。長身のミオよりは低いものの、獅子を彷彿させる風格を早くも備えている。 「……今みたいにアイスクリームをねだってね……そうしたら兄さんが買いに行ってくれたんだ」 「そうなんですね」  弟思いの良い兄のエピソードかと聞いていると違った。 「でも兄さんは迷子になってしまったんだ……」 「……え?」 「ツバキ様」 「……コテツ……」  ソフトクリームを二つ持ったコテツが颯爽と現れた。ツバキは一瞬不満そうな顔をしたが、直に真面目に頷き一つを受け取った。 「ハロウィン限定のパンプキンミックスにしました」  黒スーツの青年がソフトクリーム二つを持って歩くのは中々シュールである。そうは思ったが、ミオはありがとうございますと言いながら、受け取るだけに留めた。  ミックス、というだけありかぼちゃ色とバニラの白色の二色が交互に巻かれたソフトクリーム。一口先端を食べると、冷たくて甘い。優しい甘味のかぼちゃ味は、バニラに負けず一緒に食べても口の中に残る。美味しい。  ペロペロと上から舐めていると、ツバキの視線とかち合った。  ツバキはソフトクリームを持ちながらミオを見ていた。  あ、まだツバキ君が食べてもいないのに先に食べ始めたの良くなかったのかな?!  別に二人は同級生で、主従関係という訳でもないのだからミオが気にする事はないのだがミオはツバキの視線が気になり一旦食べるのを止めた。  でも、早く食べないと溶けてしまう……。  ツバキは何も言わず、漸くソフトクリームを食べ始めた。  ミオもそれを見て、安心しながら続きを食べた。  何も言わないが、視線は何か言いたげで気にはなるのだがそれを聞ける程ミオはツバキを知らない。まだ出会って時間の経たない相手にぐいぐい質問が出来る程の図太さをミオは持ち合わせていなかった。

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