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第24話

「おい、痛いぞ、あまり強く引っ張るな!」 「あ、す、すみません……!!」  建物から出ると直にサクラの文句が飛んできた。そこで漸くミオは我に返る。  慌てて手を離したが、サクラの細い腕には赤く手形が付いていた。 「すみません、先輩……」 「……そんな顔をするな、気にしてない、ちょっと痛かったけどな」  しょんぼりと項垂れたミオに、サクラはフォローみたいな追い打ちを掛ける。 「すみません……」  苦笑を浮かべたサクラは辺りを見回した。  昼過ぎのパークは休日と言うこともあり、入ってきた時よりも人が多くなっている。  アトラクションはまだまだ混雑しているだろうが、それでもここは人々が楽しむ遊園地なのだ。 「悪いと思うなら僕を楽しませろ」 「え……?」 「ここはそういう場所だろう?」 「は、はい!」  ミオの気分は急浮上したようで、尻尾が出ていたならばブンブンとすごい勢いで振られていた事だろう。浮かべた笑顔がそれを裏付けている。 「さっき取ったジェットコースターのパスは夕方なんだ、まだ時間はある……何か乗りたいものはあるか?」 「えっと……そうですね……」  地図を開こうと思ったが、持っていたのはツバキだ。そしてそのツバキは……。  ミオは唐突に思い出した、ツバキを置いてきてしまった事を。 「猫目君!」 「ん?」 「あ、あの……弟さん……どうしよう、置いてきてしまったんですが、今どこに……」 「そうか、そうだったな、ツバキも来ていたな……大丈夫だろう、きっと柏木が回収してくれてる」 「……大丈夫でしょうか……」  柏木というのはここまで連れて来てくれた運転手の初老の男か。確かそんな名前だったと記憶している。  ミオは尚も心配そうな顔をしていたが、それを吹き飛ばすようにサクラは笑顔を作った。 「心配ない」 「それなら良かった……えっと……今の時期だったらホラーハウスがハロウィン仕様になっていると思うので行ってみませんか?」  ホッとした表情のミオは、それならばと一つ提案をした。  ホラーハウスとはバァニーとピンキーが住んでいる町の片隅にある、怪しい老婆が住んでいるという設定の館の事だ。  ハロウィン時期になると、外装もだが、館内の演出も変わり今の時期特に人気のアトラクションになるのだ。 「じゃあ、行こうか、どっちだ?」 「こっちです、秋のゾーンだったから」  誘導するように、遊歩道をサクラと歩く。  まるで、これは、デートみたいではないか。  そう考えてしまうとドキドキする。まだ上手く状況は飲み込めてない、だけど今は。 「後でちゃんと説明してやる、だから今は僕を楽しませる事だけ考えろ」 「……はい!」  まるで頭の中を見透かされたようなサクラの言葉に驚きはしたが、ミオは素直に頷いた。それはミオも望んでいる事だから。 「スマホはあるが、荷物はホテルに置いてきてしまったな……スマホで決済出来るから問題はないが……荷物はコテツが何とかしてくれるとして、バケットを置いてきたのは失敗だったな」 「バケット?」 「ポップコーンのな、蛇村が買ってくれた」 「あぁ!……あ、何か食べますか?きっと待つだろうし……」 「そうだな……」 「えーと、何か買えるところ……」  キョロキョロと首を動かした先で見つけたのは山小屋風の売店だ。何があるのかはここからでは分からないが、出てくる客の様子からすると飲み物と軽食を販売しているようだ。 「あの、チュロス、食べたいです」 「……チュロス?」 「あの、あれです」  道行く人が食べている長い茶色のお菓子を指差す。  サクラもどんな物か分かったのか頷いている。 「じゃあ、買いに行くか」 「はい」  どうやったらサクラが楽しんでくれるかは分からないし、いつまで二人でパークを周れるのかも分からない。蛇村との関係にしたってそうだ。  分からない事だらけだ。  でも、さっき言われた通り今はサクラを楽しませたい。そして、二人きりの時間を存分に楽しみたい。 「おい、ぼけっとするな」 「すみません」 「ほら」 「……?」  サクラが手を差し出す。ミオはその意図が分からず首を傾げた。 「手だ、ほら貸してみろ、迷子にならないようにな」 「……は、はいっ!」  一瞬汚れていないだろうかと心配になったが、待たせる方がサクラの機嫌を損ねると思い慌てて出された手に自分の手を重ねる。 「行くぞ」 「はい!」  一回り小さな白い手を、今度は痛めないようミオは軽く握りながらぎくしゃくと足を動かした。  ミオの緊張感が伝わり、サクラは呆れた視線を送ったが直にそれは笑顔に変わった。苦笑のようでいて、優しい笑顔にミオは見惚れ足を止めてしまったのでその笑顔は直になくなってしまったのだが。 「足を動かせ、僕はお前の散歩をしている訳じゃないんだぞ、リードの方がいいか?」 「いえ!歩きます!」  きっとまた呆れさせてしまうかもしれない。  でもきっとまた、笑顔を見せてくるだろう、そんな予感を胸にミオはサクラの隣を歩いた。

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