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第25話

 モスグリーンのパーカーに黒のカーゴパンツ、黒のスニーカー。地味な色味の取り合わせの中、首に巻いた首輪の赤がアクセントとしてよく目立つ。  だが、パーク内ではそれよりも黒髪に付けた白のウサギ耳のカチューシャの方が人目を引く。それは、ハロウィン仕様のかぼちゃのマスコット付きの耳だ。  サクラ自身が今日の蛇村との約束があまりにも乗り気でないので、適当な服を着てきたのだが隣を歩くミオはそんな事も知らず、私服を初めて見た!と感動に浸っていた。  そして、勿論ミオの頭にもウサギ耳のカチューシャが付いている。こちらはアイボリー色の耳に黒地に銀糸でコウモリ柄が刺繍されたリボン付きだ。  二人がそれぞれ手に取った物を付けているのだが、サクラの方はバァニーでミオの方はピンキーの耳になる。  すれ違いざま、かわいい〜なんて言われたりもしているのだが二人は気付いていない。  特にミオはお揃いの耳に終始ニコニコ顔だ。  ハロウィン限定のチュロスを食べ、その後1時間程並び目当てのホラーハウスに入った。  出てきてからまだジェットコースターの時間まで余裕があるので、近くにあった童話をモチーフにしたアトラクションに乗り、パーク内のハロウィン装飾を楽しみながら散策をした。  その間にスマホで写真も何枚か撮った。二人で写っているもの、それぞれを撮ったもの。思い出として見返す事が出来るのが、ミオは嬉しかった。  夕方ジェットコースターに乗り、出てくる時には辺りは暗くなっていた。  秋の日はつるべ落とし、とは言うが夕暮れのオレンジ色の空はあっという間に薄紫から漆黒へと変わる。 「……そろそろ時間か……」  スマホに連絡が来ていたのか、サクラが呟く。その横顔はミオの願望がそう見せるのか、寂しそうなものだった。 「ミオ」 「……はい」  楽しい時間はあっという間に終わってしまう、この時間がもっと続けばいいのに。ミオはサクラの次の言葉を暗い気持ちで待った。 「最後にあれに乗ろうか」 「……え?」  あれ、と言ってサクラが指を指したのはこのパークの中央に建つ大きな観覧車だった。  オレンジ色にライトアップされた観覧車はゆっくりと円を描く。ミオの顔に笑顔が戻った。 「はい!」  日中でもパーク内を一望出来るが、夜はライトアップされたロマンチックなパーク内を見下ろせるので並んでいるのは恋人と見えるような二人連れが多かった。  それでも待ち時間は30分。この後花火開始の時刻に合わせ並びに来る者たちで混雑が予想されるので、先に並びに来て正解だった。  あと少しで順番が来る。ミオはソワソワとした気持ちでそれを待った。  丸みを帯びたゴンドラはハロウィン仕様にペイントされ、それぞれバァニーなどのキャラクターの仮装したイラストが描かれている。  あと三組で順番が来る、どのゴンドラになるのだろう、ミオは回っている観覧車を観察するように見つめた。 「スリーピーですね」 「?」 「オレ達が乗るゴンドラです」 「スリーピー……あぁ、猫か」 「はい、お昼寝が大好きな黒猫の子猫のスリーピー」  二人の前にゴンドラがやってきた。  先客が降り、係員に案内されるまま乗り込む。先にサクラが乗り、座るのを確認してからミオも乗り込んだ。  乗り入れた振動がまだ収まらない、不安定なゴンドラだったが直に静かな動きで上昇を始めた。  不安そうだったサクラの顔に安堵が広がる。  ミオも向かいに座りながら、周りを見る余裕が出始めた。まだ低層なので、まずはゴンドラ内を確認するように眺める。  ゴンドラ内もハロウィン仕様のようで、至る所にかぼちゃやおばけなどのイラストがあしらわれ、その中には黒猫のスリーピーの姿もあった。  丸くなって寝る姿は毛玉のようでもあるが、起きている時は薄緑の丸い目が愛らしい。窓際に描かれたスリーピーをそっと指でなぞると、まるで撫でているような感覚に陥る。そしてその体温までをも感じるように、それは記憶があるからだろうか。  黒猫には思い出がある。あまりよく覚えていないけれど、確か遊園地で。 「かわいいですよね」 「……あぁ、その猫か?」 「はい、ふわふわの毛にみどりのまん丸の瞳、肉球がピンクなのもかわいいですよね、あ、でもブチ模様なんですよ、脚の肉球だけ模様があるんです」 「……へぇ、詳しいな」  正面に座るサクラがふと、黒猫のスリーピーに重なる。何故、スリーピーなのか分からないけれど、だけど、何故かサクラにスリーピーが重なった。  それは時折感じていたサクラに対する懐かしさのような思いからか。遊園地の黒猫のおぼろげな思い出にリンクする懐かしさだからか。   「……好きなんです、スリーピー」 「……そうか」  一周がおよそ15分、二人だけの時間はあと十数分で終わってしまう。スリーピーよりも今は目の前のサクラだ。  薄明かりの中で見るサクラは幻想的で、現実味が薄い。目の前にいるのに幻のようで、でもそれは今のサクラとの距離を思い知らされるようでもある。  手が届く場所にいるのに、触れる事が許されない人なのだと。 「先輩」  窓からライトアップを見ていたサクラは、ミオの掛け声で正面を向いた。  限られた時間だからこそ、ミオは今しか聞けない事をサクラに尋ねた。 「……どうしてオレに、ペットにならないかなんて言ったんですか……?」  サクラの琥珀色の瞳が大きく揺れた。

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