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第26話
「どうして……か……」
サクラは自嘲とも苦笑とも取れる苦しそうな顔を作り寂しそうに笑った。初めて見るそんな顔に、ミオは馬鹿な質問をした事を後悔した。
だが、言ってしまったものは取り消せない。それに、ミオは知りたい。サクラの心の内を。
「何から話せばいいのかな……そうだな、まず、今日の事を謝ろうか」
「謝る……?」
「そうだ、とんだ茶番に付き合わせたな……」
「……」
茶番、という言葉を使った意味は分からないが今になり蛇村との関係が心配になってしまった。彼は国内屈指の資産家の息子で、サクラの婚約者だ。
もし今回の事で破談にでもなれば、サクラはどうなってしまうのだろう。
自分が仕出かしてしまった事の大きさに気付いたミオは、サクラを心配そうに見つめた。
「心配するな、言っただろう、茶番だと」
「で、でも……」
「大丈夫だ、婚約もきっと解消される……新薬の事も心配ない、蛇村だって猫目とのパイプは持ちたい筈だ……コテツが上手くやってくれる」
「……でも、運命の番だって……」
「あれはあいつの勘違いだ」
「勘違い……?」
そこで漸くサクラはいつもの表情を取り戻した。
「蛇村と会ったのは親族のパーティーでだ、今年の春頃の事だ。そこで僕は見初められ婚約者になった訳だ……あの男が運命の番だなんて言い出したからな」
「運命の番……なんですか?」
「それが勘違いと言うんだ」
意味が分からないミオは首を傾げる。それを愉しそうに見ながらサクラは説明を続けた。
「僕は小さい頃、人化が苦手でな……それを執事のコテツは大層心配した……あいつも獣人で、それで毎朝グルーミングをしてくれるようになった、自分の匂いをつけておけば少しでも牽制になるとでも考えたのか……僕は大して強くもない只の猫だがあいつは黒豹だからな……」
「黒豹……」
ここへ来るまでのコテツのしなやかな走りを思い出し、納得する。
「まぁ、それが効いているのか……オメガである事で危険な目にあった事はない、首輪もあるし、それより僕の場合未遂にしても、営利目的の誘拐の方が多いんだけどな……今でもグルーミングは毎朝でないにしろ続いているんだ、だから蛇村と初めて会った日もそうだ、コテツ本人も近くにいたんだけどな……どういう訳か蛇村は僕を運命の番と勘違いした」
「……?」
「コテツのフェロモンが僕にも付いていたのだろう、だから勘違いしたんだ……だけど、本当の運命の相手は僕ではなくコテツだ」
「えっ?!」
あまりにも驚いたミオは立ち上がろうとして、慌てて浮かしかけた腰を下ろした。勢い良く立ち上がっていたら頭をぶつけていたところだ。
「コテツは気付いたみたいだけどな……蛇村は随分と鈍いようだ、最初は気付かない蛇村に凄く怒っていたけどな……あまりにも気付かなくて少し面白がっていたな……」
「……」
「僕が卒業したら蛇村の所へ嫁に行く話がまとまり出してしまい……早急に手を打たなければならなくなり、今回の茶番に出たんだ、ミオには迷惑をかけた……ツバキもだ……詳細は教えてなかったにも関わらず手伝ってくれた……」
「……そうだったんですか……」
想像を超える内容に、ミオはまだ現実として受け入れられずにいた。
上昇していくゴンドラは頂上に差し掛かろうとしていた。
大きな窓から外界を見下ろせば、宝石を散りばめたような夜景が広がっている。
「……わぁ」
思わず声が出る。
ミオの言葉にサクラも夜景を見下ろした。琥珀の瞳にイルミネーションが映り込み、キラキラと輝いて見える。
「……きれい」
「……そうだな」
見られている事に気付かないサクラは窓の外を見ながらうっとりと笑った。ミオはその横顔を見ながら、きっとこの光景を忘れる事はないだろうと感じていた。
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