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第28話

「せんぱい……!!」  ぎゅっと抱きしめて気付いたのは、随分と小柄だという事。細い肩と薄い体に慌ててミオは腕の力を緩め、俯いているサクラの顔を見ようと首を傾けた。 「すみません、痛かったですか……?!」 「……いや、大丈夫……」  サクラは空いてしまった空間を惜しむように腕を伸ばし、ミオの体に抱きついた。 「……ただ、加減はしろよ」 「……はい!」  ゆるゆると腕を回し、優しく抱きしめる。  サクラは体重を預けるようにミオの胸に顔を埋めた。  温かなぬくもりと懐かしい匂い、何故直に思い出せなかったのだろう。  だが、気付いていたからと言って何かが変わっただろうか。きっと自分は遠くから見ることしかできなかったと思う。でも、サクラが気付いていたなら。 「……言ってくれたら良かったのに……」  まるで拗ねたような物言いになってしまった。  顔を上げ、掛けられた言葉に苦笑を浮かべたサクラは真っ直ぐにミオを見つめた。いつもの強い瞳ではなく、どこか弱々しい色が浮かぶ。 「……覚えてないと思っていたから……」 「ごめんなさい……」 「謝らなくていい、お前が思い出してくれて嬉しいよ、ミオ」 「……せんぱい……」  外界の光が照らし出すサクラはまるで宝石のように美しい。言葉にしてしまえば陳腐な表現に思えて、ミオは何も言えずただ黙ってサクラを見つめた。 「そろそろだな」 「え……?」 「楽しい時間はあっという間に終わってしまう……」  ミオの背中に回していた腕を解いた事で、サクラの言おうとしている事が分かった。  外を見れば大分地上が近付いている。  サクラはミオから距離を取るように、体を窓の方へ向けた。 「……楽しかったですか?」 「あぁ」  答えて、ミオを見つめる。優しい笑顔にほっとする。だけど。 「オレもです……先輩と……また、来たいな……」  勇気を出して言ったミオの言葉に、サクラはただ曖昧に頷いた。  幸せで楽しい時間はこれで終わり。  はっきりと気持を伝えてくれないサクラ。  だけど、それは自分も同じだ。  まだ、分からない?  それは多分初めてだからだ。こんなにも温かくて、そして熱い気持を持ったのは初めてだから。  もしかしたらサクラも同じなのではないだろうか。 「次だな」  前のゴンドラから3人組の女子グループが降りる。  ミオとサクラを乗せたゴンドラも静かに地上へ近付き、係員がドアを開けてくれた。  先に降りたのはサクラだ。軽やかにステップを踏むように、地上へ降り立つ。 「ミオ」  サクラが手を伸ばした。小さな白い手はミオを手招く。 「先輩」  その手を掴む為、ミオは腰を上げ手を伸ばした。  掴んだ手は一回り以上小さかったけれど、力強く握りしめ、温もりと共にサクラの意思が流れ込んでくるようだ。 「行くぞ」  綺麗な顔で笑い、手を繋いだまま二人は観覧車から降り立った。繋がった手を離したくない。サクラの気持を確かめたい。 「……ミオ」 「はっ、はい」 「今日はありがとう」 「はい……」  解けば直に距離が出来る。お互いの意思で繋がれていただけなのだ、片方が離せば温もりは直になくなってしまう。 「迎えだ……」  残念そうな呟きに正面を見ればコテツが立っている。その隣にはツバキと執事の柏木もいた。  蛇村の姿はないが、コテツの万事終了したというような満足気な笑顔を見れば全て上手くいったのだろう。 「じゃあな……また、学校で」 「……はい……」 「帰りは柏木に送らせる」 「……ありがとうございます……」 「じゃあ」  今言わないと伝わらない。なのに、言葉が出ない。何も言わないミオをサクラは困ったように見上げた。 「……先輩、あ、あの」 「うん」 「……あの……」 「どうした?」 「……花火!花火一緒に見たいです……見ましょう……」 「……」  ミオの急な提案に、驚いた顔をしたのは一瞬だった。サクラは少し待っていろ、と言ってミオを残しコテツ達の元へ小走りに近付いた。 「……」  困らせただろうか。  でもまだ一緒にいたい、一緒にいて、そして。  ちゃんと伝えたいから。  戻ってきたサクラはミオを見ると、手を差し出してきた。 「ちょっとかがめ」 「……?」 「いいから、ほら!」 「は、はい」  中腰になると、ミオの頭にサクラの手がふわりと伸ばされた。カチューシャを避けながら、柔らかい茶色の髪をかき混ぜるようにわしゃわしゃと撫でる。 「わっ……!」 「そんなしょげた顔をするな」 「……」  手が離れたのでミオは背を伸ばす。サクラは楽しそうに笑ってるから文句も言えない。 「花火がよく見えるのはどこだ?」 「えっ」 「お前が言ったんだろ、案内してくれ」 「はい!」  正面を見ると難しい顔のコテツとそれを嗜めている柏木。ツバキは手を振っていた。 「……」  小さく手を振り返せば三人はこちらに背を向け歩き出した。 「行こう、と言ってもお前が案内するのだけどな」 「はい……そうですね……少し歩きますがいいですか?」 「あぁ」  どちらからともなく手を合わせる。  ゆっくりとした歩調で二人は歩き始めた。

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