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第32話

「せ、せんぱい?!」 「何をごちゃごちゃ考えているんだ?!僕といるのに、花火を見るならまだしも自分の足元ばかりみて楽しいか?!僕が見えないのか?!」 「…………」  花火を見せなかったのはサクラなのだが、今そんな事を言ったら殴られそうな怒った目で睨みつけられる。  サクラがミオの考えを全て理解している訳ではないだろう。だけど、怒っている。怒っているのに。 「なんで……」  唇に指を当て、キスをされたのだと再認識するとじわじわと頬が熱を持ちミオの顔は真っ赤になってしまった。 「したいからに決まるだろう?!お前は?嫌だったのか?」 「……いやでは……ないですけど……」 「けど、なんだ?」 「だって……」  急にキスしてくるなんて驚くではないか。  さっきまでの心を覆っていた暗い気持ちは消え、今はただただ狼狽える。心臓もバクバクとうるさく波打つ。急激な心の温度差にミオ自身ついていけない程だ。 「……お前はもう僕のものじゃないのか?」 「……!」 「違ったのか?」 「……違わないですけど……急に、してくるから……驚いて……」 「急じゃなきゃいいのか?」 「……」  サクラはふむ、と頷くミオの方を向いて座り直し顔を上向け目を閉じた。 「?!」 「これでいいか?」 「……?!」 「やり方が分からないか?」  片目が開かれ、挑発するように琥珀の瞳が睨みつけてくる。  この人には敵わない。苦笑すると、ぐちゃぐちゃしていた頭の中がすっとクリアになった。  シンプルに、ただ一つの気持ちがミオを支配する。  ドキドキする心臓はまだうるさいし、顔の赤味は全然薄れはしないけれど。  サクラの細い肩に手を置き、顔を近付ける。  やり方が分からなくはないが、自分からするのはこれが初めてだ。 「ミオ」  焦れたような声の後に続いたのは優しい言葉。 「お前がしてくれるまで目は閉じている、好きだよ、お前が……だから、ミオ……」  サクラの言葉に勇気を貰い、ミオは顔を近付ける。あと数ミリのところで、目を閉じミオはそのまま唇を重ねた。  ふにゃりと柔らかい唇。数秒押し当て離す、短い2度目のキス。 「ミオ」  パチリと目を開くと目の前には薄っすらと頬を染めたサクラ。愛しい、という気持ちが湧き上がる。  嬉しくて笑い出しそうな、それなのに胸が押し潰され泣きそうになるような、相反する気持ちが胸の中に渦巻く。知らなかった感情の洪水に名前を付けるとしたら一つしかない。  これが恋なのだと、ミオは気付いた。

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