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第33話
「花火を見ようか」
呆然とサクラの顔を見つめていたミオだったが、花火という単語にぱっと顔を上げ夜空を見上げる。
建物に隠れ音しか聞こえてこないが、連続して花火が打ち上げられている。
花火大会という訳では無いので、短時間で終わってしまうだろう。
ミオは慌てたように腰を上げた。
「見ましょう!」
「そうだな」
二人してベンチを離れる。自然と触れた手はそのまま繋がれる。
人垣の一番後からではあるが、見上げれば見事な花火が大きく夜空に打ち上げられたところだ。
キラキラと輝きながら儚い命を散らす大輪の華。
「うわぁ……」
思わず漏れた感嘆の声。サクラも同意とばかりに視線を合わせ微笑んでくれた。
「きれいだな」
貴方の笑顔の方が花火よりも綺麗ですよ。そんな台詞が浮かんだが、ミオが口にする事はなかった。
ただ、サクラの横顔を見るだけ、それしか出来なかったから。
続け様に打ち上げられる花火は十分もしないうちに終わった。最後の火花が地上にパラパラと舞い落ちると、辺りにいた人々も銘々に動き出した。
夜空を見上げても小さな星がポツリポツリと浮かぶだけ。だけど、ミオは何も描かれていない夜空のキャンバスを見上げていた。
「ミオ」
ハッとしてミオは隣のサクラに視線を落とす。
いつまでも動かないから呆れてしまっただろうか、だがその心配は杞憂のようだ。
穏やかな顔でミオを見上げてくるサクラの顔にホッとする。
「帰ろうか」
「……はい」
もう我儘は言えない。名残惜しさから繋いでいた手に力を込める。
「ミオ」
きゅっと同じ力で握り返し、サクラは歩き出した。ゆったりとした歩調は少しでも長く一緒にいたいから、そう思ってもいいだろうか。
閉園時間まではまだ時間がある。だが、帰宅する客の方が多いのか、ゲートへの歩道は歩けない程ではないが混雑していた。
土産物店が立ち並ぶアーケードに差し掛かると一瞬何か土産をという考えが浮かんだが、財布の中身を思い出し考えを消し去る。
もうあと数十メートルでパークから出てしまう。急に現実に引き戻される予感に、寂しさが心を覆う。
「……楽しかったですか?」
「楽しかったよ」
「……よかった……あの……」
「ん?」
「また……来たい、です……一緒に」
「そうだな」
「約束、約束ですよ!」
「わかった」
早口になるミオをサクラは楽しそうに見上げて笑った。
その笑顔は長続きしなかった。ふぅっと息を吐き出し、サクラは前を見据えた。ミオも同じように視線を見えてきたゲートへと移す。
あんなにしっかりと繋いでいたというのに、離れるのは余りにもあっけなく解かれた。
「楽しかった……ほんとに、あっという間だった……」
「……」
「ミオ、今日はありがとう」
ゲートの手前には執事であるコテツが待ち構えていた。
それは分かっていた事なのに落胆が大きい。
このまま離れたくなかった、だけど、だからといってこのまま時間を引き伸ばす事は出来ない。
例えパーク内に居座っていた所であと1時間もすればこの中にはいられなくなる。その後どうすればいいのかなんて高校生のミオには分からない。
この場では別れるしかないのだ。
「こちらこそ……ありがとうございました……」
それは精一杯の強がり。まだ一緒にいてください、そう言いそうになる気持ちを抑え込んで、ミオは笑顔を作った。
「また、学校で」
「はい……」
出迎えた執事はサクラに恭しく礼をした後、儀礼的にミオにも会釈をしてきた。
サクラはコテツに促されるようにゲートへ向かい歩き出す。
ミオは追いかけたい衝動を堪えるように拳を握りしめ、二人を見送った。
「犬塚様」
「?!」
「執事の柏木です、寮までお送り致します」
「……あ、はい……ありがとうございます」
いつの間にか横にはここまで送ってくれた初老の執事が立っていた。
先に歩き出す柏木の後に続きミオもゲートを潜る。
何だか夢を見ていた気分だ。
だけど、最後に繋いだ手の温もりはちゃんと覚えている。幼少の頃の思い出と重なり寂しかった気持ちが少しだけ薄れる。
夢じゃない。
夢じゃないから。
振り返ると柔らかい光に照らされたパークが見えた。次に来た時はもっと思い出を作りたい。
ミオは気持ちを切り替えるように、力強く歩き出した。
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