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第35話

「えっ………?」 「えっ?!聞いてないの?!」 「あー……うん……はい……」  遊園地に行ってから一週間が経っていた。昼休み、意を決してサクラのクラスをツバキに聞きに来たミオであったが予想外の返答が返ってきた。 「……留学……」  ツバキのクラスまで来たミオを快く迎えてはくれたが、今は困惑顔だ。  それはそうだろう、何故そんな大事な事を聞かされていないのかとツバキでなくとも思うだろう。 「えっと……いつから……」 「あ、今日……午後のフライト…………そうだ、ちょっと待っててくれないか」 「え?」  まだ呆然としているミオを置き、ツバキは教室の中へ引き返す。仕方なく、廊下の窓際に寄りツバキを待つ。  なんで、教えてくれなかったのだろう。  あの日、自分たちの関係は確かに変わったと思っていた。  ちゃんと確信は持てないけど、恋人になったのだと思っていた。  それなのに。 「犬塚君!」 「はっ、はい!」  キビキビとした声にミオは思わず姿勢を正す。同じアルファだというのに、生まれながらの王者の風格を兼ねているようなツバキに呼ばれると緊張してしまう。 「職員室に行こう」 「え?」 「その前に、荷物、取ってきて」 「え?」 「早くする!」 「はっ、はい!!」  ツバキに圧倒され、訳が分からないままミオは教室に戻り自分の荷物をまとめた。まとめている最中鳥野からどうしたのかと聞かれたが、答える事は出来なかった。ミオ自身、自分が何をしているのか分かっていないからだ。  だが、ツバキに逆らおうという気持ちは起きずそのまま職員室に行き早退を伝え(ツバキが教師に何か言い許諾された)校門に出ると、見た事のある黒塗りの車が停まっていた。  後部座席のドア横には猫目家執事の柏木が静かに立っている。 「犬塚君、早く!」  急かす声に慌てて後部座席に乗り込むと、ドアは静かに締まった。 「……デジャヴ……」 「既視感ではなく、同じ状況の再来、と言うべきかな」 「……そうだね」  ツバキは背もたれに背中を預けゆったりとした姿勢で座っているが、ミオとしては寛いだ気持ちになれない。確かに同じ状況の再来、だったらあの時同様この説明をツバキはしてくれるのだろうか。  隣を見れば、真っ直ぐにミオを見つめるツバキの視線とかち合う。何かを確かめるような、何かを疑うような強い瞳にミオは気圧される。 「僕がこんな事を言うのは野暮以外の何物でもないのだけれど……」 「……?」 「二人は一体何なの?」 「……え?」  何故かイライラした様子のツバキにたじろぐ。ここまでの親切が嘘みたいな表情を見せる事に戸惑う。 「……何で連絡先の交換をしていない……?」 「うん……そうだよね……」  しょんぼりと項垂れたミオを見て、ツバキも強く言い過ぎたと思ったのか詰問口調が幾分和らぐ。 「……あの、さ、二人は……その……」 「……?」 「付き合っているという認識で……いいんだよね……?」 「…………たぶん」 「たぶん?!」 「つ、付き合ってます!!た、たぶん、ですけど!」 「……多分……ではないと思うんだけど……はぁ……まぁ、兄さんも悪いか……」 「え?」  はぁ、と長く息を吐き出したツバキは少し呆れたような表情をした。 「君からは兄さんに聞きづらいよね、年上だし、あまりグイグイ行くタイプでもなさそうだし……だからといって留学の事まで黙って……いや、黙っていた訳ではないか……話さなくてもいいと思ったのか……?」 「え?!」 「あ、悪い意味ではなくて……もしかしたら留学の事は知っていると思われていたのかも」 「……?」 「僕達は1年だから馴染はないけどね、ロンドンの姉妹校と交換留学制度があり3年生で何人か時期を分けて行く事になっているんだ、壮行会も別に全学年の生徒が出ていた訳ではないしね……うーん、結構知ってる人は知ってるから兄さんもその認識だったんじゃないかな……」 「……全然知らなかった……」 「そうか、留学の話はもう前から決まっていたし……学内でも学校新聞に取り上げられたり……って読んでないか……」 「はい……」 「兄さんも人が悪い」  ツバキは自分で言って勝手に納得しているようだ。だが、ミオはまだモヤモヤした気持ちを抱えたままだ。  何も知らなかった上にサクラがいなくなるなんて。 「あの……先輩には会えるんですか?間に合うんですか?」 「あぁ、もうフライト時刻なんだけど、強風の為遅れているらしい、そのまま時間を遅らせてもらえないか頼んでいる」 「え?!時間を遅らせられるんですか?!」 「あぁ、プライベートジェットだ、多少は融通が効く」 「…………」  別の世界みたいな話だが、ミオもすっかり慣れてしまった。  それならば会える。  だけど、会って何を話したらいいんだろう。  確かに、サクラへ会いに行くつもりでツバキの所へは行った。だけど、こんな事になるなんて。 「後悔しないようにね」 「……はい」  ツバキの言葉を胸の中で噛み締めた。

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