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第5話
「はるくんが来てくれてよかったぁ。でなきゃ私、もっと事を荒立てちゃったかも・・・」
「あはは、それは困るねぇ。一応お客様だし」
男が立ち去ったあと、二人で急いで事務所に戻り店長に事の顛末 を伝える。
受け取った名刺を見せると
「あーここの人たち、確かに時々デリバリーとか利用してくれるけど・・・そんなガラの悪い人いたっけ?」
「藤ヶ谷ビルディングって言えば、ここらで一番豪華な建物だし・・・多角的に事業展開しているって話を聞くけど、そんなヤバイ感じの人が出入りしてるなんてショック」
名刺を真ん中に憶測を巡らす二人を春は黙って見ていたが、このままでは埓が明かないし何よりオープン時間に間に合わない。
「あの・・・俺がデリバリー行きますし、パックミスの件も謝罪してきますから・・・」
春の声に、二人が勢いよく春の方を見る。
「ダメよはるくん。あの人いい匂いとか言ってたじゃない!絶対危険!」
「ホント?はるくんが行ってくれたら無事解決で絶対安心!」
ほとんど同時に相反することを叫んだ二人に春は苦笑した。
「宮田さん大丈夫です。発情期も終わっているし念のために抑制剤飲んで行きますから」
「そう?でもなんであの人、匂いに気がついたのかな?私は全然感じないよ」
首を傾げて呟く宮田さんに店長もウンウンと大きく頷く。
「まさか、あの人αだったりして!」
店長が冗談っぽく笑えないことを言った。
「え・・・」
確かに発情期は抜けているはずだし自分で感じる違和感もない。βである店長や宮田さんも何も感じていないのに、なんであの男はいい匂いだなんて言ったんだろう。
春はほのかに緊張する。
今まで出会ったαはロクな連中ではなかったため、春はαに対して偏見を持っていた。
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