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第7話
春の働くファストフード店から歩いて10分のところに藤ヶ谷ビルディングがある。
勢いで来たものの、あまりにもお洒落な外観に春は入るのを躊躇っていた。
手にしていた男の名刺を見ると、携帯番号もしっかり記載されている。
良かった、電話して外まで取りに来てもらおう。
春はスラックスのポケットに手を突っ込み絶望した。
「・・・スマホ、忘れた」
もう一度建物を見上げるが、なんとなく場違いな自分がのこのこと入っていけるほどの勇気は春は持っていない。
・・・今時公衆電話を探すのも大変だ。冷めた商品は自分が買い取ればいい。店に戻ってアポを取り直そう。
そうと決めたら急がなくては・・・と、くるりと振り向いて歩き出そうとした時。
「うわぁ!」
春は真後ろに立っていた人物に勢いよくぶつかりその反動で尻もちをついた。
なんと!
まさか真後ろに人がいるなんて!!!
手に持っていた商品は無残にも地面に叩きつけられたため、弾みで開いてしまったドリンクが相手のズボンに掛かってしまっている。
恐る恐る見上げるとずいぶんと背の高い男性が自分を見下ろしているが、その表情は逆光になってしまって全く伺えない。
「社長!大丈夫ですか」
男性のシルエットの後ろから現れた人物にハンカチを渡されて
「大丈夫・・・・」
と呟く姿から、春は目を離せなくなった。
その瞬間、ふわりとした香りが春を包んだ。
深い森の中にいるような、樹木のようなウッディな香り。
・・・やば。この人、αだ。
「きみ、立てる?」
香りの主は地面に座り込む春の顔を覗き込むようにして右手を差し出している。
とにかく謝らなくては。
春は相手の右手は無視をして慌てて立ち上がると、全力で謝罪した。
「大変申し訳ありません!!!」
直角なほどに腰を折り思いの外大きな声になってしまった謝罪は、意外なことにクスクスと笑われてしまうこととなる。
驚いた春が恐る恐る顔を上げると、そのαはとても柔らかい笑顔で微笑んでいて更に春を驚かせた。
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