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第8話

今まで春が出会ったαたちは、近づいただけで威圧感に圧倒されてしまうような、どちらかと言えば野性的で粗野なイメージが強かった。 それなのに、今目の前にいるαからそんな印象はカケラも感じられない。 それどころか慈愛に満ちた優しさに包まれてしまうような不思議な印象。 春にとっては慣れない居心地の悪さに視線を足元に落とし、刹那めちゃくちゃになってしまった商品が目に飛び込んできて そこでやっと我に返った。 「あぁっ!商品が・・・・」 飛び散ってしまったドリンクの氷やポテトをひっしに掻き集める春は途方に暮れた。 見ればぶつかってしまった男性のスラックスにもコーラが派手にかかってしまっている。 「本当に、本当に、申し訳ありません」 「・・・ここにデリバリーしたかったの?」 その男性が春の手からスッと名刺を取り上げた。 「高知。これ、知ってる?」 男性は後ろに控えている男に名刺を見せた。 「これは、不動産事業部の八幡ですね。存じております」 「そう・・・」 茫然と見上げる春から、もはや食べ物とは言えなくなってしまった代物を「預かりますね」と声を掛けてから取り上げて 「じゃあ高知。彼にコレ、届けくれる?」 と男に渡してしまった。 「こ、困ります・・・そんな物を・・・」 慌てて取り返そうとする春を、男性は優しく微笑みながら制する。そうするうちに、男は商品を持って建物の中に入って行ってしまった。 「大丈夫だよ。きっと彼はお腹を空かせて待っているからね・・・それより・・・」 「それより?」 春は小首を傾げて男性を見上げる。 「私の濡れたスラックスはどうしたらいいかな」 再び絶望感に襲われた。 春の目から見ても高級そうなスーツなのはわかる。 「クリーニング、させてください・・・」 小さく呟いた声が震えた。 少しでも気を抜くと、あまりの緊張に涙がこぼれてしまいそうになる。 この人はさっき男に社長と呼ばれていた。 きっと社会的地位の高いαだろう。 そんなαを怒らせてしまったらどうなるか・・・想像するだけで春は恐怖だった。 目を伏せ固まる春を、またさっきの香りが包む。いや、さっきよりずっと濃厚だ・・・。

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