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第14話

喉を潤し少し落ち着いてから、藤ヶ谷に気づかれないようにチラリと部屋の中を見渡してみる。 上品で優雅な調度品の類いは全て、きっと自分には想像もできないような高級な物だろう。 触り心地のいいソファを撫でながら、春はそっと藤ヶ谷を盗み見た。 柔らかそうなさらりとした前髪の奥、知的で落ち着いた印象の目元が忙しなくパソコンと手元の書類をいったり来たりしている。 整いすぎた目鼻立ちに幾らか冷たさも感じるが、先ほど自分に向けられた微笑みは 柔らかで穏やかな優しさに満ちていたような気がする。 これまで出会ったαたちの、高圧的で高姿勢な雰囲気は彼からは全く感じられない。 ・・・αなのに、不思議な人。 これが春の受けた、 藤ヶ谷琉聖の第一印象だった。 「さてと、お待たせしました」 パタンとパソコンを閉じ伸びをした藤ヶ谷に不意に声を掛けられ、ボーッと彼を眺めていた春は驚きのあまり 「はい!」 と返事をして勢いよく立ち上がってしまった。 そんな春の姿を見て、藤ヶ谷は口元に笑みを浮かべる。 「おなかすいたでしょ?夕ごはん、お付き合いしていただけませんか?」 「えっ・・・はい?」 この場でスラックスの弁償の話をするものと思い込んでいた春は、思いもよらない藤ヶ谷の提案 に変な返事をしてしまった。 「よかった。では参りましょうか」 疑問形のはい?を承諾したと受け止められてしまい、春は大いに慌てる。 「困ります!」と口に出そうとしたが、 藤ヶ谷がどこかに電話をする姿に何も言えなくなってしまった。 こちらを見ながら口元に「しーっ」と人差し指を当てる彼を見て、春は一言も発せられなくなった。

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