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第17話

「失礼いたします」 落ち着いた雰囲気でドリンクを持ってきたウェイターに、春は仕方なく再び腰を下ろす。 それを見て、 承知したのだと受け止めた藤ヶ谷は、嬉しそうな笑みを浮かべてグラスを手に取った。 「では、いただきましょうか」 目の前にグラスを掲げられ、春も慌ててグラスを手にする。 「料理は適当に頼んでしまうね。アレルギーとか嫌いなものはないかな?」 「・・・はい」 「よかった」 「あの・・・・」 「ん?」 「あの・・・・」 なかなか言い出さない春に メニューから顔を上げた藤ヶ谷は小さく 「どうした?」 と呟き小首傾げる。 「藤ヶ谷さんは、どうして僕と食事なんかを・・・」 春は意を決して口にした。 成り行きで此処まで来てしまったが そもそも春は謝罪のために訪れたわけで 考えてみればその相手と優雅にグラスを傾けるなどおかしな話だ。 ましてご馳走してもらうなんて・・・。 「どうしてだろうねぇ・・・西野くんは、俺と食事するの、イヤ?」 手にした、気泡が絶え間なく下から上へ流れる琥珀色のグラスを眺めながら藤ヶ谷が微笑む。 藤ヶ谷の自身を指す言葉が私、から俺、に変化したことを敏感に覚った春は 動揺を隠すように、グラスに手を伸ばしアップルサイダーに口を付けた。 目の前に並べられたアンティパストは、見たことのないようなものばかりで春は緊張する。 「そうそう、うちの八幡。西野くんのお店にご迷惑かけたそうだね・・・すみませんでした」 「あぁ・・・あの人」 思い浮かべる八幡という男は、まるで反社会勢力のような出で立ちで、目の前にいる藤ヶ谷と同じ会社の人には全く見えなかった。 「彼は父の経営する会社の人間でね。 頼りになる男だったから時折こちらの仕事も依頼していたんだけど もしかして・・・怖かった?」 「・・・はい。少し」 「そっかぁ・・・そうだよねぇ」 とうなずきつつ藤ヶ谷は皿の上のオリーブを指で摘み、ゆっくりと口に運ぶ。 「つい難しいこととか面倒なことを頼んでしまったんだけどね。今回のことは父の方にも報告したし、もう二度と迷惑はかけないと思う」 「あの・・・それもなんですけど、クリーニング代を・・・」 春は一番気になっていることを切り出した。 「うーん・・・それねぇ」 藤ヶ谷はフォークの先で生ハムを弄びながら何か考えているようだった。 その姿を見ながら、さっきの藤ヶ谷を真似してオリーブを口に入れてみたが 噛んだ瞬間、口いっぱいに広がった食べ慣れない味に春は思わず顔をしかめる。 「決めたよ。西野くん」 藤ヶ谷の言葉に春は覚悟する。 今月は本当にピンチなのだ。 二ヶ月に一回の受診も今月だし、薬代もバカにならない・・・。 これまでの藤ヶ谷の言動や様子を見れば、分割でも許してくれそうな気がする。他人に甘えるのは申し訳ないが、ここは仕方ない。 そう思い、一気にアップルサイダーを飲み干した。 「これからしばらくの間 夕ご飯、付き合ってくれない?」 「・・・・はい?」 意外な返答に春はキョトンとして藤ヶ谷を見つめる。

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