21 / 43

第21話

高知はハンドルを握り 真っ直ぐ前を見たまま顔をしかめ、 軽く頭を振った。 それにしても、一体なにが藤ヶ谷をそこまで駆り立てるのか。 何度も窓を開け換気したにもかかわらず 未だふわりと香るような錯覚に陥らせる 西野春のフェロモンのせいなのか・・・。 高知は全く理解できずにいる。 ただ昼間からの藤ヶ谷の行動を間近で見ていれば それはまさにαのΩに対する 執着行動そのものだった。 高知自身もαなので、身に覚えがないと言えば嘘になる。 ようは、フェロモンによって感情が支配される 誤作動のようなものなのだ。 ただ今回は、藤ヶ谷本人が全く気がついていないだけに始末が悪い。 それに、特定の・・・しかもまだ未成年の こどものようなΩにここまで入れ込む藤ヶ谷など 相当・・・らしくないのだ。 高知は、ただ呆れるばかりだった。 チラリとバックミラーで藤ヶ谷を見る。 相変わらず外を眺める彼は、 男でαの高知でも、ハッとするほど繊細でしなやかでとても魅力的だ。 彼が微笑み手を差し伸べれば、 たいていの人間は有頂天となり簡単に恋に落ちるだろう。 現にこれまで何人もそういう連中を、高知は見てきた。 「・・・では、あなたの持てる全てをさらけ出して口説いたらいかがです? 琉聖ならば、簡単に落とせるでしょ?」 そう口にして、ゆっくり車を停める。 車はもう、藤ヶ谷の住むマンションの車寄せに 到着していた。 「・・・きっと落とせないよ。 そんな簡単なことじゃない」 「どうして?今まで相手にしてきた連中と 西野春とでは一体なにが違うんです?」 「わからない・・・、なにが違うんだろうね」 高知は運転席から降り、後部座席のドアを開けた。 「琉聖があのこのフェロモンに惑わされているってだけの簡単な話でしょ?」 少々イライラした口調でそう言って 車から降りるよう促すが、 降りる気配もなく腕組みをして考え混む藤ヶ谷に、高知は心の中で舌打ちをした。 「・・・そうなのかな。それだけ、なのかな」 「きっとそれだけです。今までだってこれからだって、αとΩなんてそれだけなんですよ。 さぁ、もういい加減降りてください。  明日だって早いんだから・・・」 それでもなかなか動こうとしない藤ヶ谷に痺れを切らし 無理やりにでも降りそうと腕を取った瞬間、 藤ヶ谷が呟いた。 「・・・正直に言えばさ。  昼間ぶつかられた時から、西野くんに囚われちゃってたんだよね、俺」 「え・・・・」 高知は思わず藤ヶ谷の顔を見る。 「・・・マジかよ」 「うん・・・マジだよ」 そして ふぅ・・・っと、小さく ため息をつく。 「笑顔が見たかっただけなんだけどさ・・・ でも西野くん。俺に一度も笑ってくれなかったんだよね・・・」 そう言って自嘲気味に笑う藤ヶ谷に、 もうこれ以上、高知はあえて何も言わずにいた。

ともだちにシェアしよう!