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第22話

顔に降り注ぐ太陽の眩しさに耐えきれず ゴロンと寝返りを打ち、春はゆっくり目を開く。 カーテンの隙間から差し込む日差しは もう朝日の柔らかさは全くなく、だいぶ日が高くなっていることが感じられた。 起き上がり時計を見ると、10時を少し過ぎたところだ。 喉の渇きに水を飲もうと冷蔵庫を開け、 そこに入っている可愛らしい包みを見て 改めて春は、昨夜のことをゆっくりと思い起こしてみる。 あまりに緊張していたせいか、 なにを話たかなんて全然覚えていない。 今思えば、会話らしい会話はほとんどなく、 黙々と高級イタリアンを腹に詰めていたよう気がするし、正直、多少の居心地の悪さも感じていた。 だけど時々香ったシダーウッドの、 深い森に包まれるような香りに癒されたのは抗えない事実だ。 それに、思い出される記憶の中の藤ヶ谷は、 どんな場面でも微笑み、優しく自分を見つめていた・・・。 それなのに 見つめられた自分は、 いったいどんな顔をしていたんだろう。 どんなに必死に思いだそうとしても、 どうしても思い出せない。 考えてみれば藤ヶ谷は、今月ピンチの自分に 金品を要求することなく、 まして店にクレームを入れることもなく 穏便にすませてくれたのに。 なぜ自分は、藤ヶ谷の笑顔に 目を背けたくなってしまったんだろう・・・。 春は少しだけ罪悪感を感じていた。 「・・・いただきます」 昨日、帰りがけに貰ったプリンを、一口スプーンですくって口に運ぶ。 少し固めのプリンは、甘くて優しい味がした。 ――――――――――――――――――――――:- 「おはようございます・・・」 17時からのシフトインの時間より 少し早く事務所に入ると 店長しかいないと思い油断していた春は もう一人、見たことのない男子がいることに 驚いた。 「おはよう、はるくん。ちょっといいかな」 「・・・はい」 「こちら今日から職場体験に来る清川蓮斗くん」 「清川です・・・」 店長に紹介された清川はペコリと頭を下げ 不躾に春のことを、頭の先から爪先までジッと見てからにっこりと微笑んだ。 なんだか品定めをされたようでいい気持ちはしないが、春は努めて大人の対応を心掛ける。 「西野です。よろしくお願いします」 「清川くんの教育係、はるくんに頼んじゃっていいかな?悪いんだけど」 「え・・・僕がですか?」 いま目の前でニコニコしている清川蓮斗は 自信に満ち溢れ、己を一番可愛らしく見せる術を知っているように見え、率直に言ってしまえば、春が一番苦手に感じてしまう類のΩだ。 それに確か宮田さんは、女の子のΩだって言っていたはず。 春が渋っていると思ったのか、 「はるくんに任せれば基本大丈夫だし、 お互い分かり合える点も多いだろうし」 と店長が、わざとらしい甘えた口調で言いながら 春の肩をマッサージしてくる。 春は店長にこれをされると、くすぐったくて笑ってしまい断れなくなってしまうのだ。 「わかりました。わかりましたから止めてくださいよ!」 「頼むよ〜、はるくんが頼りなんだから〜」 きっと店長は、ΩはΩ同士理解し合える・・・ とでも思っているのだろう。 現実はドラマなんかとは全然違うのだけれど。 「よろしくお願いします、西野さん」 小首を傾げて微笑む清川は、春から見ても破壊的は可愛らしさがあり、少し羨ましいとさえ思ってしまう。 「清川くんは明日のオープンから入るから、はるくん教えてやってね」 「はい、がんばります」 店長の期待に応えたい。春はただその一心で 気の重い教育係を引き受けた。

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