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第23話

平日の夕方は、高校生が多い。 仲間同士で楽しそうにワイワイ騒いでいたり、 カップルでポテトをつまみながら微笑み合っている姿を見るのが 春はとても好きだった。 春は高校に入学してすぐ、この店でアルバイトを始めた。 放課後は出来る限りバイトを詰め込んでいたので、春には思い出せるような 同級生との楽しい放課後の時間はほとんどなかった。 でも別にそれはどうでもよかったし、悲しいと思ったことは一度もない。 なぜなら、バイトに来れば 良くしてくれる仲間がいたから。 宮田さんやクローズ専門に入っていた大学生。 最初こそΩが来た、とよそよそしい態度をされたものの、一生懸命頑張っていれば認めてくれて 仲間として受け入れてくれた。 店長もそうだ。 一から仕事を教えてくれ、今では頼りにしてくれる・・・。 春は、自分が手に入れられなかった光景を 見ているだけでも なぜかそれが自分の記憶の中にある青春のような気がして幸せな気分になれるのだ。 「さてと、今日はもう閉店しようか」 店長が伸びをしながらフライヤーの電源をオフにする。 今日は夕方の混雑が過ぎたら、客足がパタリと止まってしまった。 春は、いつもなら手の行き届かないところまで夢中になって掃除をしていたのだが、 時計を見ると、閉店までもう15分だった。 「春くんもあがっちゃって?明日オープンだから早いでしょ。あと、俺が閉めて行くから」 「はい、お疲れ様です」 タイムカードを押そうと再び時計を見て、春は思い出した。 そうだ・・・もうすぐ藤ヶ谷が迎えに来る。 「疲れた?毎日無理させちゃってごめんね。 はい、これがんばったご褒美」 「あ・・・すみません。いただきます」 浮かない顔をしていると 疲れたと勘違いした店長が、揚げすぎて余った チキンを紙袋に入れて持たせてくれた。 春は早く着替えて、藤ヶ谷が駐車場に来る前に店を出ようと急ぐ。 藤ヶ谷の車に乗るところを、なんとなく店長に見られたくなかった。 店の向かいにある本屋の駐車場なら、ここはちょうど死角になるから都合がいい。 まだ温かいチキンをリュックに入れ 「お先に失礼します」 と言いながら従業員出入り口のドアに手を掛けたところで 「はるくん、ちょっとお願い!」 と店長に呼び止められた。 「ごめん、これゴミ置き場に置いてってくれる?」 手渡されたペットボトルに 「私物の処分ですか・・・高いですよ?」 と春が悪戯っぽく笑う。 すると 「なんだと〜」 と言いながら、店長は春の両肩をマッサージしてきた。 「もう!やめてくださいっ!!」 「生意気な口をきく子にはお仕置きだー」 二人でふざけあいながらドアを開け外に出る。 ひとしきり首回りをくすぐられお互い笑いあったあと、店長が屈託のない笑顔で春を見た。 「あのさ、大変だと思うけど一緒にがんばろう」 「・・・はい!」 店長に手を振り小走りで自転車置き場に向かう。ふと駐車場を見ると、 見慣れな車が一台こちらを向いて止まっていた。 ――いつから、そこに? 車の運転席には藤ヶ谷が座っていて ハンドルを抱きかかえるような姿勢で こちらを見つめていた。

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