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第25話
途中、国道沿いにあるコーヒーショップのドライブスルーでドリンクを買い
車が向かったのは、市街地から少し離れた小高い山の斜面に一昨年オープンした複合型のリゾート施設だった。
春も噂には聞いたことはあったが、ちょっとした山道の先にあるその場所は、
自転車だけが交通手段の春にとっては、簡単に行けるような場所ではなく、
地元ながらも来たのは初めてだ。
「少し歩くよ」
藤ヶ谷は春の分のドリンクも持ち
車から降りて真っ暗な駐車場を歩いて行く。
春が暗闇に足が竦んで、なかなか歩き出せずにいると、それに気づいた藤ヶ谷が「ごめんね」と言いながら戻ってきた。
「暗いけど、今から行くところは俺たち以外には誰もいないから大丈夫だよ・・・怖い?」
心配そうに顔を覗き込む藤ヶ谷が、手を伸ばし春の髪に触れようとした瞬間
春は自分でも驚くくらいに体がビクッと反応した。その行為に、拒絶されたと感じた藤ヶ谷は少し傷ついた表情を浮かべ、
「彼は西野くんに触れるのに、俺は触れられないんだね・・・」
と、寂しそうに微笑む。
「・・・違う、違うんです。ごめんなさい」
振り絞るように言う春に、藤ヶ谷は「謝らないで」と前置きしてから
「この先に夜景が綺麗に見える場所があるんだ。一緒に見たいと思ってね・・・いい?」
柔らかな声色で言った藤ヶ谷に、春は黙ったまま
コクリと頷いた。
しばらく歩くと、足元がフワフワとした芝生に覆われていることに気づく。
「あの・・・藤ヶ谷さん、ここって?」
「あぁ、ここね。ゴルフ場」
「え・・・」
「ここの18番ホールのグリーンから街の夜景が見えるんだよ」
ほら、と藤ヶ谷の指差す先には市街地の夜景が広がっていた。
「うわぁ・・・すごい」
春は思わず感嘆の声を上げる。
両側を小高い丘陵に縁取られ、眼下には春の住む街の夜景煌めきが、
そして空には星が瞬いていた。
「座ろう?」
藤ヶ谷はグリーンの上に座り込み、春のTシャツの裾を軽く引っ張る。
「ここ、来たの初めて?」
春は夜景に視線が釘付けのまま頷く。
「ここもですけど、夜景を見るのって初めてで・・・」
そこまで言って、春は重大な事に気がついた。
「これって・・・不法侵入とかで、怒られないんですか?」
しかもゴルフ場の良く手入れをされたグリーンの上に勝手に入り込み乗っかっているのだ。
決して許される行為ではでないだろう。
「んー、それは多分大丈夫。心配しなくていいよ」
「・・・そう、なんですか?」
藤ヶ谷にそう言われても、春は到底落ち着ける気分にはならない。
そもそもこんな暗闇で、誰か来たらとても怖いし警察にだってお世話になんてなりなくなかった。
ソワソワと落ち着かない春に
藤ヶ谷は苦笑混じりに告白する。
「ここの持ち主、俺だから」
「・・・えぇっ⁉︎」
驚く春は辺りをキョロキョロと見渡すが
暗闇で何も見えなかったため、隣の藤ヶ谷をジッと見つめた。
「だから、絶対大丈夫。ね、座ろ?」
「はい・・・」
ゆっくり腰を下す春に、藤ヶ谷は優しく微笑む。
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