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第30話

「お疲れ様です!」 「わぁ、びっくりした・・・。もう帰ったかと思ってたよ」 店長や宮田さんに甘え、早めに上がらせてもらいロッカーで帰る準備をしていると 先に上がったとばかり思っていた清川が 元気いっぱいな様子で、ロッカールームに飛び込んできて春を驚かせた。 「帰ろうかと思ったんですけど、なんか西野さんと話がしたくて・・・このあと時間ってあります?」 時計を見ると、14時半を少し過ぎたところだ。 体調が良くなくて早く上がらせてもらうのにどうしたものかと春が悩んでいると、そんな想いを察したのか 「西野さんち、お邪魔してもいいですか?」 と清川が提案してきた。 ――自宅?自宅かぁ・・・ 春自身、今まで誰かを自宅に招き入れたことは一度もなかった。 父親が生きていた頃は、父の友人が時折遊びにも来ていたが、他界してからはそれもない。 まして自宅に招けるような親しい間柄の友人など、考えてみたら自分には一人もいなかった。 「あれ?もしかして西野さん、警戒しています?俺、Ωだから貴方のことは襲いませんよ?」 清川の物言いに少しだけムッとした春だったが、断れば断ったでまためんどくさいことを言われそうだと思い、仕方なく自宅に招くことにした。 ―――――――――――――――― 家に帰っても客をもてなすような物は何もないため、飲み物とお菓子を買うために寄ったコンビニでも、清川はずっとはしゃいでいた。 体調不良も重なり、あまりに違うテンションの差に、春は軽い疲労感に襲われる。 そんな春を知ってか知らずか、とにかく清川は元気いっぱいだ。 「おじゃましまーす。うわぁ!キレイにされてるんですね」 「適当に座ってね・・・」 春がうがい手洗いをしている間、清川はキョロキョロと部屋の中を観察しているようだった。 「俺、Ωの友達の家って初めてなんですけど なんかすっごく新鮮!西野さん一人暮らしなんですね」 コンビニで買ったジャスミンテーを飲んで落ち着こうとも思ったが、清川のハイテンションぶりに圧倒されて、自分の部屋なのに春は居心地の悪さを感じる。 「清川くんて、友達多そうだよね・・・」 「・・・そう、見えます?」 ペットボトルを両手で持ち、ミルクテーをこくんと一口飲んでから清川は春を上目遣いに春を見つめた。 小動物のような清川に真っ直ぐに見られると、 相手はΩだというのに、なぜかモヤモヤした気持ちになってくる。 それはさっきからそこはかとなく感じる、清川の香りのせいかもしれない。 春は自分以外の誰かに興味を持つ自分に、新鮮な驚きを感じていた。 「残念でした!俺、友達なんて1人もいませんよ。実家で暮らしていた時も、ホームに移ってからも・・・」 テーブルの上のポテトチップスを摘んだ清川が少しだけ寂しそうに見えた。 「ホーム・・・?」 「俺、保護観察中でホームで暮らしているんです。今回職業訓練でお世話になるんですけど、 店長から何も聞いてなかったんですか?」 「いや・・・何も聞いてないよ」 さらりと天気の話でもするかのようなプライベートな話題に、春はなんて返していいのか言葉に悩む。 「西野さんて、18歳なんですよね?」 清川は、春の心中などお構いなしのように喋り続けた。 「俺はなったばっかの18歳なんですけど、西野さんは?」 「僕はもうすぐ19歳の18だよ」 「そっか。じゃ西野さん、いっこお兄さんか」 そう言って笑う清川を見ていると、 第一印象自分とはまるで正反対の、どちらかといえば苦手なタイプの彼だったのに もしかしたら、分かり合える存在なんじゃないか。 ・・・春はそう思い始めていた。

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